監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
ゴールデンウイーク明けくらいに、急に落ち込んだり何もする気が起きなくなったりする心身の不調は、「五月病」と呼ばれてきました。じつは五月病は正式な病名ではありません。ですが、環境が変わりやすい春には適応障害やうつの状態になりやすいといった事実があります。
五月病とは何なのか、五月病となる原因や理由をわかりやすく解説し、合わせて五月病の予防となる、五月病の原因であるストレスへの対処法を紹介します。
春になると耳にする言葉の一つに「五月病」があります。
五月病は、「病」という名前が付いていますが、正式な病名ではありません。4月の就職・進学・異動といった環境の変化によってストレスが緊張感が継続し、一か月程度経過した5月に悩んだり落ち込んだりして精神的にも身体的にも不調となる状態の呼称です。
五月病とは、「春に起こりやすい、環境の変化によるストレスを原因とする、心身の不調」と理解するのが分かりやすいでしょう。
ストレスによる精神的不調から、身体的にも影響が出て不調になると考えられているのです。
五月病を正式な病名として診断するならば、多くの場合軽度の「適応障害」にあたります。
適応障害は、環境の変化に伴うストレスや緊張感に対応できず、何もする気が起きない抑うつ状態に陥って社会生活に支障をきたす場合に診断される病気です。
気分の落ち込みなどが生じるうつ病と似た症状が現れますが、環境の変化といったストレス要因がハッキリしている場合に、適応障害と診断される傾向にあります。
五月病の原因として春は環境の変化によるストレスが溜まりやすいのが大きな理由と考えられます。
就職・進学・異動など「春に生じがちな環境の変化」によって、新しい人間関係の構築に取り組んだり、新しい仕事や習慣を覚える必要があったり、ストレスや気苦労が絶えないでしょう。
また、入試や就職活動を頑張って新しい環境に飛びこんだ方は、理想と現実のギャップに苦しんだり、これまでのモチベーションを保てなくなってしまうケースも考えられます。
時期的要因により、春は誰でも心身の不調に陥りうるのです。
決算期の3月や、異動のある4月に仕事が忙しく、疲れを溜めてしまう社会人の方も多いでしょう。
疲労が溜まると、自律神経バランスの乱れなどが生じてメンタルヘルスにも悪影響を及ぼします。
年度や季節の変わり目は、無理がたたって、やる気が出なくなったり、だるさを感じやすい時期であるといえます。
4月~6月に不安を感じたり、落ち込みやすくなったり、だるくて体調が優れないといった状態が続く場合は、五月病かもしれません。
知らず知らずのうちにストレスや疲労が溜まっている可能性もあるため、春はメンタルヘルスの不調になりやすい時期だと注意し、自分の状態にいつも以上に気を配りましょう。
原因不明の不調が長引く場合は、心療内科や精神科を受診するのをおすすめします。
ストレスへの対応が上手くいかないと、メンタルヘルスの不調におちいるおそれもあります。対策を立てるために、人はストレスにどう適応するのか、また「ストレス耐性」について解説します。
ストレスとは、外部から刺激を受けた際に生じる緊張状態・プレッシャーです。
物理的な刺激、心理的な刺激など、あらゆる刺激が広くストレスの原因となります。
喜ばしい出来事であっても、変化や刺激がある場合にはストレスになりえるのです。
しかしストレスは悪い面ばかりではなく、生活に刺激を与えるスパイスの役割を果たし、変化を乗り越えて成長する欲求も生み出します。
変化や刺激により、生活の推進力を与えてくれる役目も果たしていると言えるでしょう。
ストレスは完全には避けられず生活に必要な役割もありますが、人間は強いストレスに対してどう適応すればよいのでしょうか。
私たちには、ストレス刺激を受けると体内でコルチゾールというホルモンが分泌され、ストレスから心身を守る仕組みが備わっています。そして、「動揺・混乱・怒り」を覚え、「理解・解決努力」を経て、「不安・落ち込み」を感じつつ消化していく…といったように、一定の精神的負担を乗り越えながら段階を経てストレスと折り合っていくと考えられています。
しかし、ストレスが強すぎたり長期化したりすると、コルチゾールが適切なタイミングで分泌されにくくなります。その結果、ストレスへの防御反応が低下していくのです。そして、気分の落ち込みといった心身の不調が引き起こされます。
ストレスへの耐性は、生まれ持った資質や性格によって個人差があります。
几帳面な人、責任感の強い真面目な人はストレスに弱く、ストレスを溜めこみやすいとされています。
ネガティブで気持ちの切り替えが苦手な人も、ストレス耐性は低いといえるでしょう。
逆に、楽観的で気持ちを切り替えやすい人は、ストレスに強い傾向があります。
何事も前向きに捉えたり、経験だと割り切って受け入れられる人も、ストレス耐性は高い傾向です。
少しでもストレス耐性を高める方法として、ストレスの原因を確認する作業が効果的です。
原因をつきとめ何らかの対処が出来る可能性もありますし、原因の確認から気持ちの準備ができて、ストレスを多少軽減できる可能性があるからです。
また、自分で「コントロール可能な問題」と「コントロールできない問題」を分けるのも、気持ちの整理がつきやすくストレス耐性を高めてくれるでしょう。
自分ではコントロールできない事象が世の中にはたくさんあります。「コントロール不能な問題は悩んでも仕方がない」と考えるだけで、感情は楽になるでしょう。
五月病の予防として「ストレスを溜めない工夫」が有効であるため、ストレス解消法やストレス対策をいくつか紹介します。
また、肉体的な疲労を上手に回復するのは、ストレス耐性を高めるのに大きく役立つでしょう。
また、メンタルヘルスが不調になった際の対処法である精神療法も紹介します。
メンタルヘルス不調が起こる可能性を下げるには、ストレスを溜めない工夫が一番です。
ストレスを解消するのに効果的な行動や習慣をご紹介します。
運動には、ストレスを発散させたり、睡眠リズムを整えやすくする作用があります。
とくに適度な有酸素運動は心も体もリラックスできる効果が大きいので、軽いランニングや散歩を生活習慣に取り入れてみましょう。
運動以外で、旅行・映画鑑賞・読書といった好きな趣味にうちこむ行為は、ストレス解消に大きく役立ちます。
自分にとって心地よく、慣れ親しんだ行動に集中すると、ストレスの緊張状態をほぐす効果とよい気分転換になる効果が期待できるのです。
栄養バランスのよい食事は、疲労を予防し精神の安定に貢献してくれるでしょう。
ストレス耐性を促すコルチゾールの生成を促すビタミンCを多く含んだ野菜や果物の摂取は、よいストレス対策になると言われています。
また、精神を安定させる働きのある神経伝達物質であるセロトニンの産生源となるトリプトファンを含んでいるバナナを食べるのもおすすめです。
血流をよくして疲労回復に役立つ水分補給も、気分転換をかねてこまめに行いましょう。
疲労回復により、自律神経が整い精神を安定させる効果が期待できます。
とくに質のよい睡眠が疲労回復を大きく左右します。
規則正しい生活をする、就寝1時間前には入浴を済ませる、就寝前に明るい光や画面を見ないといった、睡眠の質を高める習慣を取り入れましょう。
就寝前の軽いストレッチの習慣も、血行がよくなり疲労回復に役立ちます。
落ち込みや不安が続いてしまい、うつに近い状態になった場合には、さまざまな精神療法が効果的とされていますので、代表的な精神療法を簡単に紹介します。職場や学校で身近に相談できる場所や、専門的な医療機関にまずは相談してみましょう。
カウンセラーや身近な人との会話や相談により、現状を吐露して共有すると、気持ちが楽になる場合もあるでしょう。
医療者と患者との会話による支持を続けて自信と勇気をつけさせ、患者の心の底にある問題に気づかせて、ともに解決方法を探りながら症状の改善を目指す治療です。
ストレスは出来事の受け取り方次第で大きく変わるため、ものごとの受け取り方は複数あることを提示して、辛い出来事を客観的に検証し、患者の認知の変化を促す治療です。
五月病をはじめとするメンタルヘルスの不調は、誰にでも起こりえます。
春はストレスや疲労が溜まりやすいと意識し、疲労回復のための簡単な知識や、五月病対策となるストレス解消の習慣化が、自分を救ってくれるかもしれません。
周りの人がいつもより深く落ち込んでいる際にも、「話を整理しながらよく聞く」などのコミュニケーションや専門機関を紹介するといった対応によって、力になれる場合があるかもしれません。
しかし、生活や習慣に注意して過ごしたとしても限界があり、体調やメンタルの調子を崩す場合もあります。
メンタルヘルスの不調が続く場合には無理をせず、はやめに病院を受診したり、専門機関に相談するようにしましょう。
五月病は有職者の約半数が経験したことがあるとされるほどよく見られる心身の不調です。新年度の環境の変化によるストレス、緊張感などの継続が原因とされています。さらに、日本では新年度から一か月ほど経過した頃に大型連休があるため、張りつめていた気持ちが一気に途切れて、連休終了後にモチベーションを戻しにくくなるケースも少なくありません。
五月病はストレスに弱い方ほど発症しやすい傾向があります。日頃からストレスを溜めやすい方は、五月病のリスクが高いため新年度は特にストレスや緊張感を溜め込まないように注意しましょう。
五月病の症状は時間が経過すると自然に改善していくケースが多いですが、なかには適応障害やうつ病などの病気に進行する場合もあります。心身の不調が一か月以上続く場合、強い不調で日常生活に支障を来している場合には心療内科などへの受診を検討してみて下さい。
勤務先の産業医などに相談するのもおすすめです。
各ブランドの商品一覧をご確認いただけます。