監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
「食物繊維とは何?」と聞かれたとき、どのように答えますか?多くの方は「野菜に含まれていて、便秘解消のために必要なもの」と答えるのではないでしょうか。
確かに、食物繊維はおなかスッキリのために欠かせない栄養素です。しかし、これだけでは食物繊維を語るには少々物足りません。
「食物繊維とは」の問いに、不溶性・水溶性の違いから、摂取目標量、効率よく摂取する方法、豆知識までピックアップし、分かりやすく答えます。食物繊維の「なぜ何」をまるごと解説しますので、食物繊維を網羅したい方は必見です。
食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の総体」と定義されています。簡単に言い換えると、消化酵素によって分解されないために、胃や小腸を通過して大腸へそのまま達する成分です。
とはいえ、なんとなくピンとこない方もいるのではないでしょうか。もう少し詳しく説明しましょう。
食物繊維は、消化・吸収されません。そのため、昔は「エネルギーにならない食べ物のカス」と考えられていたようです。1970年代、イギリスの医師が「欧米人に比べて、アフリカの原住民の大腸がんの罹患率が低いのは、繊維質の摂取が関係しているのではないか」と考えておこなった研究をきっかけに、食物繊維の働きが見直され始めました。
昔は不要とされていた食物繊維ですが、今では有用な働きが期待できることが分かり「第6の栄養素」ともいわれています。食物繊維の働きについては、食物繊維の種類と働きで詳しくご紹介します。
ヘルシーなイメージの食物繊維ですが、実は炭水化物の一種なのはご存知でしょうか。炭水化物には、エネルギー源となる「糖質」と、消化できない「食物繊維」があります。
ダイエットをしている方のなかには、炭水化物を控える「糖質オフ」を意識している方もいるかもしれません。しかし、炭水化物には食物繊維が豊富に含まれており、摂取が少なくなると食物繊維も不足してしまい、便秘になる可能性も。
おなかすっきりのためには、炭水化物の適度な摂取が大切です。
食物繊維ときくと、野菜のシャキシャキとした歯触りのイメージから、繊維質でスジ状のものを連想される方も多いのではないでしょうか。しかし、食物繊維の形状は多種多様です。水に溶けるサラサラ状だったり、ネバネバとしていたりと、さまざまな形状の食物繊維があります。
食物繊維の形状の違いは、食物繊維の種類の違いでもあります。繊維質でボソボソとした形状が多い方が「不溶性食物繊維」。ネバネバ・サラサラ状が多い方が「水溶性食物繊維」です。同じ食物繊維ですが、体内での働きや含有している食物が異なります。
水に溶けにくい性質をもっているのが、不溶性食物繊維です。
不溶性食物繊維は、便を増やす作用があります。しかし、もともと便秘の方は腸のぜん動運動が鈍っているため、不溶性食物繊維を摂取するとより便が詰まってしまい、逆に便秘を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
不溶性食物繊維には、以下のような働きがあります。
玄米、ごぼう、レンコン、大豆、タケノコ、キャベツ、キノコ類など
水に溶けやすい特性をもっているのが、水溶性食物繊維です。水溶性食物繊維には、以下のような働きがあります。
水溶性食物繊維は不溶性食物繊維に比べて、発酵性がよい特性をもっています。腸内の善玉菌を活発にして、健康維持に必要な成分です。
昆布、ワカメ、大麦、人参、大根、らっきょう、オクラ、山芋、リンゴ、いちご、ミカンなど
厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日当たりの目標量を以下のように設定しています。目標量とは、生活習慣病の発症を予防する観点で、日本人が当面の摂取目標とするべき値です。
「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」の、栄養素等摂取量(1歳以上、男女計・年齢階級別)によれば、20~29歳の男女は、16.0g/日の食物繊維しか摂取できていません。
1950年頃の日本人の平均食物繊維摂取量は、1人あたり20g/日を超えていたそうです。ところが、食生活の変化に伴い、食物繊維の摂取量は減少傾向にあります。
厚生労働省は、まずは「1日あたりプラス3~4gの食物繊維を意識して摂取」をすすめています。普段どのくらいの食物繊維を摂取しているのか、この機会に見直してみてはいかがでしょうか?
食物繊維の摂取量が不足すると、腸内環境が悪化します。すると、便を排出するための腸のぜん動運動が鈍り、便秘がちに。また、糖や脂質、ナトリウムの排出が上手くいかずに、肥満になったり、生活習慣病のリスクを高めたりします。
では、摂りすぎるとどうなるのでしょうか。通常の食生活であれば、食物繊維を摂りすぎることはほとんどありません。しかし、健康食品やサプリメントなどで多量に摂取しすぎると、下痢になったり、ミネラルの吸収を妨げたりする場合があります。
先ほど紹介した、1日の摂取目標量を参考に摂取しましょう。
食物繊維の摂取量は、全年代を通して不足しています。意外にも、食物繊維を摂取するのは難しいのです。例えば、成人男性の摂取目標量である21gは、1日にレタス約6玉を摂取しなければならない計算に。
レタスだけ大量に毎日食べ続けるのは難しい…そこで、効率よく食物繊維を摂取できる方法をご紹介します。
手っ取り早く食物繊維の摂取量を増やしたい方は、ご飯やパンなどの主食に食物繊維を取り入れてみましょう。例えば、白米を大麦入りのものにしたり、玄米入りにする工夫をしてみましょう。
パンだったら、全粒粉パンやライ麦パンに変えるのも一案です。最近では、全粒粉のパスタや小麦ふすま入りのパスタなども普及しています。いつもの主食にちょっと手を加えてみてはいかがでしょうか。
おやつや小腹が空いたときの間食にドライフルーツやナッツを取り入れましょう。歯ごたえがあるため、咀嚼回数が増えて満足感も十分です。
ヨーグルトにきな粉をかけたり、フルーツをトッピングしたりしても、美味しくお腹を満たせますよ。食物繊維入りの補助食品を取り入れるのもひとつの手です。
生野菜はカサが大きく、歯ごたえがあるためあまり多くの量は食べられません。炒める、茹でるなどしてカサを減らして、食べやすくなるように工夫しましょう。
おすすめは野菜をたっぷり入れたスープです。スープに野菜の栄養や旨みが凝縮されているため、美味しく栄養を補えます。
不溶性食物繊維は便を増やす効果があります。水溶性食物繊維は血糖値の上昇を穏やかにしたり、腸内の善玉菌を活性化させたりする働きがあります。どちらも健やかな身体を維持するためには欠かせません。
厚生労働省は、成人男性21g/日、成人女性18g/日以上の摂取を推奨しています。通常の食生活であれば過剰摂取になるケースはほとんどないため、積極的に摂取しましょう。
現代の日本人は食物繊維が不足しています。主食やおやつに取り入れれば、手軽に食物繊維の摂取量が増やせますよ。この機会に、自分がどのくらいの食物繊維を摂取できているか見直してみませんか?
現在人に不足しがちな食物繊維は吸収される栄養素ではありませんが、便通や腸内環境を整えるなどお腹に優しい作用があります。それだけではなく、腸内の発がん性物質やコレステロールを吸着して排出を促すため、がんや動脈硬化などの生活習慣病を改善してくれる作用も期待できます。血糖値の吸収を緩やかにする効果もあり、血糖値の急上昇も防いでくれますよ。
日頃から食物繊維を多く摂ることが推奨されていますが、摂る種類には要注意です。
便秘がちの人が不溶性食物繊維を多く摂ると便秘になりやすくなります。水溶性食物繊維は逆に摂り過ぎると下痢になりやすくなります。
ご自身の身体の状態に合わせて摂取する食物繊維を選んでくださいね。
各ブランドの商品一覧をご確認いただけます。