監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
夏バテは自律神経バランスの乱れを原因とする体の不調で、熱中症は発汗による脱水症状や体温の上昇によって引き起こされる症状です。夏バテと熱中症は、引き起こされる原因や症状は異なりますが、まったく無関係な症状ではありません。
熱中症を予防するには、夏バテを予防して夏を乗り切る体作りも重要です。今回は、夏バテと熱中症の違いを解説したうえで、両者の関係性や予防策を見ていきましょう。厳しい夏を乗り切るためのヒントとしてご活用ください。
地球温暖化の影響もあり、夏の気候は年々厳しくなっています。厳しい気候で体調を崩しやすい夏に、とくに注意すべき体の不調には夏バテと熱中症があります。
夏バテとは、夏の高温多湿の気候によって自律神経バランスが乱れ、疲労感、倦怠感、食欲不振、睡眠障害などの体の不調が現れる状態をいいます。
夏には、エアコンを効かせた室内と高温多湿の室外との気温差が激しく、体温の調整を行う自律神経のバランスを崩しやすいです。自律神経のバランスが崩れると疲労を感じやすくなり、夏バテの症状が現れます。
熱中症とは、夏の暑さによる体温の上昇や発汗による脱水症状によって引き起こされる、めまい、吐き気、頭痛などの症状をいいます。
人間には、体に熱が溜まると発汗によって体温を下げる機能があります。長い時間暑い場所で運動や作業をしていると汗が止まらなくなり、体内の水分やミネラルが排出されてしまうため、脱水症状が起こるのです。
水分やミネラルは体に欠かせない成分で、脱水症状による熱中症は夏バテに比べて重篤な症状を引き起こします。
夏バテと熱中症は、夏に注意すべき体の不調という点で共通しています。症状が起こる原因や症状を見ると両者はまったく異なりますが、無関係な不調ではありません。
ここでは、夏バテと熱中症との違いを具体的に見ていくとともに、関係性についても解説していきます。
夏バテの主な原因は、室内と屋外の極端な温度差によって、体温の調整が上手くいかずに自律神経のバランスが崩れる点にあります。一方、熱中症の主な原因は、高温多湿が原因の発汗による脱水症状や体温の上昇です。
夏バテと熱中症の各特徴について比較しやすく表にまとめました。
夏バテは、室内と屋外の移動が多いと起こりやすいですが、熱中症は高温多湿の場所に留まり続けると起こります。屋内でもエアコンをつけずに高温多湿の状態が続けば、熱中症になる危険はあります。とくに、高齢者や小さい子どもは室内での熱中症にも注意が必要です。
夏バテでも頭痛や吐き気による食欲不振など熱中症に似た症状を感じる場合もありますが、夏バテと熱中症には症状の経過に大きな違いがあります。夏バテの症状は徐々に現れますが、熱中症の症状は一気に現れてしかも重症な場合も多く、夏バテよりも警戒が必要です。
夏バテの予防には日々の睡眠や食事からの栄養補給が重要ですが、熱中症は栄養状態が良好な人でも発症する可能性があるため油断できません。
暑い場所で長時間活動する場合には、水分補給と暑さ対策を忘れないようにしてください。
夏バテと熱中症の違いを知ると、夏バテと熱中症は、原因も症状も異なるまったく無関係な症状とも感じるかもしれません。しかし、夏バテと熱中症は夏場に起こる体の不調というだけでなく、密接な関係性もあります。
夏バテになると、自律神経の乱れにより体温調整が上手くいかなくなり、体の栄養状態も低下します。そのため、高温多湿の気候への対応力も弱まっており、夏バテの人は元気な人に比べて、熱中症にもかかりやすい状態にあるのです。
厳しい夏を乗り越えるには、水分補給や体を冷やすといった熱中症対策だけでなく、睡眠や栄養補給といった疲労回復を中心とする、夏バテにかからない生活習慣も大切となってきます。
日本では、毎年数万人が熱中症によって救急搬送されています。令和4年(5月から9月)の熱中症による救急搬送の人数は71,029人でした。そのうち、死亡したのは80人で、1633人は長期入院、入院診療が22,586人となっています。年齢別では、高齢者が38,725人と全体の54.5%を占めています。
参照:総務省「令和4年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」熱中症は誰もがなり得る病気で、重篤な結果を招きやすいため、十分な予防策を講じなくてはなりません。体の弱い高齢者や小さい子どもはとくに注意する必要があるでしょう。
夏バテになると熱中症にもかかりやすくなります。そのため、熱中症の予防には、日々の生活習慣による夏バテ予防も欠かせません。
夏バテの予防の観点から、生活習慣と生活環境で重要な4つのポイントを紹介しましょう。
十分な睡眠や適度な運動は、自律神経のバランスを保つのに役立ちます。自律神経の乱れによる夏バテを予防するには、意識的にリラックスした状態を作り交感神経を休ませるのが重要です。エアコンや扇風機を利用するなどして適切な室内環境を作り、十分な睡眠をとれる環境を整えましょう。
ただし、エアコンにより体を冷やし過ぎたり、激しい運動により体力を消耗させたりするのは逆効果となるため注意が必要です。
夏バテによる疲労を予防するには、食事による栄養補給も大切です。疲労回復に役立つ、ビタミンB1や体のエネルギー源となるたんぱく質を多く含む食材を、積極的に摂るのが良いでしょう。具体的には、豚肉やうなぎなどがおすすめです。
熱中症を予防するには、体温の上昇と発汗による脱水症状への対策が重要です。
夏は、外出する際にも常にペットボトルを持ち歩き、水分補給を欠かさないよう心がけましょう。汗とともに失われるミネラルを補給するために、スポーツドリンクや経口補水液を活用するのもおすすめです。
体温の上昇を避けるには、直射日光に当たらないよう帽子や日傘を利用する、地下街を利用するといった心がけが重要です。自分は大丈夫と甘く考えず、できる限り直射日光を避けて生活してください。
熱中症は室内にいても油断できません。近年は電気代の高騰も気になるところですが、エアコンや扇風機は積極的に利用してください。暑い日にもエアコンや扇風機を我慢して体調を崩してしまっては元も子もありません。
夏バテの場合は、予防策にでもお話しした十分な睡眠や栄養補給を心がけていれば、セルフケアで症状が改善できる場合も多いでしょう。
しかし、熱中症の場合は症状も急で、最悪の場合には命にもかかわるため、ぐったりしている、意識が朦朧としているなど重症な症状があるときは早急に医療機関で受診してください。
夏バテと熱中症とは原因や症状は異なりますが、予防策には共通点があります。厳しい夏には、十分な睡眠と栄養価の高い食事による栄養補給を心がけ、夏バテに負けない体を作り上げましょう。
日々の生活で夏バテを予防するだけでなく、暑い日には水分補給と暑さ対策にとくに注意して熱中症への対策も怠らないでください。
厳しい夏も日々の生活習慣の心がけで快適に乗り切りましょう。
夏バテと熱中症は共に気温や湿度が高くなることによって引き起こされます。一般的には、夏バテよりも熱中症の方が重症と思われがちですが、夏バテが熱中症を引き起こす原因になっているケースも少なくありません。
夏バテも熱中症も食事、運動、睡眠などの基本的な生活習慣を整え、適切な暑さ対策や環境の整備をすれば予防できます。
万が一発症した場合、夏バテはセルフケアのみで改善する場合も多いですが、熱中症は以下のような症状があるときはできるだけ早めに医療機関を受診して下さい。
・汗が出ない
・尿が少ない、色が濃い
・水分摂取ができない
・熱がある
・強い頭痛や嘔吐がある
・意識が朦朧としている
このような重篤な症状が出てしまう前に、暑い日には今回ご紹介したような対策を講じましょう。
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