監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
理想の睡眠時間は、人によって異なります。そのため、「〇時間寝るのがベスト」とはいいきれません。ポイントは、「睡眠によって十分な休養感を得られたか」。翌朝の目覚めはどうか、日中の生活はどうかを見極めて、自分に合う理想の睡眠時間をみつけるのが重要です。
とはいえ、おおよそ何時間の睡眠時間が必要か知りたい方もいるでしょう。そこで、小中学生の10代、働き盛りの20代、30代、40代、睡眠時間が短くなってくる50代以降にわけて、目安になる睡眠時間を解説します。
厚生労働省が実施した「日本人の睡眠時間調査」では、1日の睡眠時間は「6時間以上~7時間未満」と回答した割合がもっとも多く、「5時間以上~6時間未満」と回答した人が次いで多い結果がでています。また、「7時間以上」と回答した人は約3割にとどまりました。
日本人の睡眠時間は、世界的にみても少ない傾向にあります。2021年にOECD(経済協力開発機構)が実施した、加盟33カ国の平均睡眠時間の調査によると、平均睡眠時間が最長だったのは、南アフリカの553分(9時間13分)でした。一方、日本の平均睡眠時間は442分(7時間22分)と、1時間50分以上の差をつけて最下位の結果がでています。
また、厚労省のデータによれば日本は特に女性の睡眠時間が短いことがわかります。
主要8ヵ国のうち、女性の睡眠時間が男性の睡眠時間を下回っているのは、日本だけです。
日本人女性の睡眠時間が短い理由には、働く女性が増えている・育児や家事・介護の負担が大きいなどの背景があると考えられます。
国の調査では、「睡眠によって休まった感覚(休養感)を得られていない」と感じている人が、年々増加している結果となりました。
さらにもう少し詳しくみていくと「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」に基づく「睡眠の質の状況」の調査では、20代から70代の男女のうち、週に3回以上「日中に眠気を感じた」人は、3割以上との結果がでています。また、20~40代の女性にいたっては、4割以上が慢性的な「日中の眠気」を感じているようです。
良質な睡眠は、「疲労回復」や「免疫力・集中力の向上」のために欠かせません。睡眠時間と一緒に、睡眠の質についても見直す必要があります。
良質な睡眠を得るための「理想の睡眠時間」は、人によって異なるため、一概に「〇時間」がよいとはいえません。まずは自分の「理想の睡眠時間」を知りましょう。
睡眠時間には、生活するうえで最低限必要な「必要睡眠時間」と、日々の活動量によって変化する「適正睡眠時間」の2種類があります。注目したいのは、必要睡眠時間です。
人は、起きる・食事をする・呼吸をする・体温を維持するなど、生きているだけで体力を消費しています。「基本的な生活のなかで溜まった心身の疲労」を回復するために必要なのが、必要睡眠時間です。
必要睡眠時間は、遺伝的要因(30~50%)と環境的要因(50~70%)で決まると報告されています。
必要睡眠時間と基礎代謝量は互いに関与しており、基礎代謝量が多い人ほど睡眠時間が長い傾向にあります。基礎代謝量は筋肉量などに左右されますが、加齢による筋肉量低下により、大きく影響を受けます。
一般的に、基礎代謝は加齢とともに低下するため、高齢の方は睡眠時間が短くなるとされています。
季節によっても、睡眠時間は変化します。一般的には、夏よりも秋や冬の睡眠時間が10~40分程長くなる傾向にあります。
冬にかけて睡眠時間が長くなる理由は「日長時間(日の出から日の入りまでの時間)」です。人は明るくなると目が覚めて、暗くなると眠気を誘うメラトニンという脳内物質が分泌されて眠くなる仕組みが備わっています。夏は日が長いため、メラトニンの分泌が少なくなりやすく、寝つきが悪くなる方が多いと考えられています。また、高温多湿な日本の環境も睡眠時間が短くなる原因の一つと言えるでしょう。
「たくさん眠れば疲労回復ができる」という考えは、間違いです。睡眠不足は身体によくありませんが、実は「睡眠のとりすぎ」も身体に悪影響を及ぼします。
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクトが実施した「睡眠時間と死亡リスクとの関連」の研究によると、以下のような結果がでています。
循環器疾患については、睡眠時間が7時間のグループと10時間以上のグループを比べると、2倍以上の死亡リスクがあると示されました。しかし、睡眠時間が長いとなぜ死亡のリスクが高まるのか、理由は明らかになっていません。
また、二度寝や三度寝などをすると「睡眠慣性」を誘発する場合があります。睡眠慣性は、脳がしっかりと目覚めず、眠気が残り、身体のだるさを感じる現象です。
「平日の寝不足解消のために、休日はたくさん寝るぞ!」と考えている方もいるかもしれませんが、起床時間のズレは睡眠慣性を引き起こすリスクがあるので注意しましょう。
「理想の睡眠時間」の要点をまとめると、「理想の睡眠時間は人によって異なり、長ければよいともいいきれない」と結論づけられます。では、どのように睡眠時間を決めたらよいのでしょう。重視したいのは、睡眠の質で触れた「休養感」です。
睡眠で最も重要なのは当日の疲労のリカバリーなので、翌日「睡眠不足による生活の質の低下」がなければOKなのです。起床後、よく眠れたと感じられるか、日中に眠気で困らないか、が判断基準に挙げられます。
「何時間寝ないといけない」と意識しすぎるよりも、自分に合う理想の睡眠時間を見つける方が重要なのです。
自分の睡眠時間は適切か、セルフチェックできる簡単な項目をご紹介します。ひとつでもあてはまったら、睡眠の質が低下している、もしくは睡眠不足かもしれません。
睡眠不足は、「日中の疲労感」「生活習慣病のリスク上昇」「作業能率の低下」などを引き起こす可能性があります。
睡眠時間は適切か、良質な睡眠がとれているか、自身の睡眠を振り返ってみましょう。睡眠不足の影響については、以下の記事で詳しく解説しています。
理想の睡眠時間が人によって異なるとはいえ、目安となる時間も知っておきたいところです。そこで、どのくらいの睡眠時間を確保すればよいかの目安を世代別に解説します。睡眠時間を決める際の参考にしてみてください。
全米睡眠財団(NSF)は、6歳から17歳までの理想的睡眠時間を以下のように推奨しています。
子どもにとって十分な睡眠は、運動能力や記憶能力を高めるために欠かせないものです。また、発達への影響のほかにも、精神面にも影響をおよぼします。
すこやかな成長をサポートするために、子どもの睡眠の質向上に向けて何ができるかを考えましょう。
厚生労働省は、働く世代に必要な睡眠時間は6~9時間と示しています。働き盛りの20代から40代は、慢性的な睡眠不足の傾向にあります。なるべく毎日6時間以上の睡眠をとるよう意識しつつ、自分にとっての理想の睡眠時間をみつけましょう。
参考:厚生労働省|良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと「必要睡眠時間は、年齢とともに短くなる」と先述しましたが、具体的にはどのくらいの時間で十分なのでしょうか。個人差はありますが、50代では6.5時間、60代では6時間程度の睡眠時間が標準的です。
気をつけたいのは、床上時間(寝床で過ごす時間)が長いのに対し、休養感がないケースです。床上時間が8時間以上、かつ休養感を感じられない場合、死亡リスクが上がるデータもでています。
50代以上は睡眠時間にこだわりすぎず、日中は活動的に過ごし、夜は眠たくなったら寝床に入る健康的な生活を意識しましょう。
理想の睡眠とは、自分が「しっかり休めた!」と感じられる睡眠です。つまり、時間よりも、睡眠の質の方が重要なのです。良質な睡眠をとるために、以下の点に気を配りましょう。
・日中の運動・活動量を増やす
・寝る直前の食事は控える、食事内容を見直す
・入浴は睡眠2~3時間前にすます
・睡眠1時間前からスマホは控える
・寝室の環境を整える
また、寝つきが悪いときは無理に寝ようとせず、心身をリラックスさせる方向に意識を向けるのもひとつの手段です。
睡眠は、すこやかな毎日をおくるために欠かせないものです。睡眠の質を考えたうえで、自分の理想の睡眠時間をみつけ、うまく睡眠と付き合っていきましょう。
良質な睡眠は健康や美容の基本です。睡眠不足が続くと心身の不調を引き起こしやすくなるため、日頃から寝不足気味だと自覚している方は睡眠について見直してみましょう。
睡眠時間は単に長ければ良いというものではなく、大切なのは熟眠感と休養感を得られるかどうかです。必要な睡眠時間は人によって異なりますが、しっかりと体を休めることができる睡眠を確保しましょう。
睡眠のリズムが乱れたときは、次のような対策も有用です。
・朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びる
・日中はできるだけ身体活動量を増やす
・就寝の1~2時間前はスマホやタブレット、パソコンに触れない
・就寝前は部屋を暗くして静かな環境にする
・入浴は就寝の1時間前までに済ませる
その他、就寝前は好きな音楽を聞く、アロマをたく、読書をする、など気持ちが落ち着く行動もおすすめです。スムーズに眠りにつけるよう、ご自身に合った方法を見つけてください。
ただし、寝つきが悪い、夜中に起きてしまう、朝早くに目が覚めて寝付けない、といった症状が長く続く場合は心身の不調が原因かも知れません。
日常生活の見直しをしても良質な睡眠がとれない場合は医師に相談しましょう。
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