監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
心身の疲労回復のためには良質な睡眠が不可欠です。わかっていても、忙しい毎日で十分な睡眠時間がとれない方は多いでしょう。
慢性的な睡眠不足は、集中力や注意力低下・ストレス増加・免疫機能低下・生活習慣病のリスク向上など、心身に多くの悪影響を及ぼします。
「なぜ睡眠で疲れがとれるのか」「効果的に疲労を回復させる睡眠をとるにはどうすればいいのか」疲労回復と睡眠の関係を考えながら、対処法や生活習慣のポイントをご紹介します。
睡眠中は、心拍数が減少し、脈拍や血圧も下がり、呼吸は穏やかになります。体温が低くなり、筋肉はリラックスして、心身は休養状態に入るのです。とくに深い睡眠のノンレム睡眠時には、脳や体の疲労回復や、日中の活動によるダメージの修復を促す成長ホルモンが多く分泌され、代謝が促進されます。大脳が休息をとるため、自律神経のバランスが整い、ストレスが緩和されて耐性が向上するのです。
睡眠は、ただ体を休めるための時間ではありません。心身の健康状態を維持して、翌日元気に過ごすための準備をする大切な時間なのです。
睡眠がもたらす効果については、以下の記事で詳しく説明しています。
忙しい現代人は、つい十分な睡眠時間の確保をおろそかにしがちです。しかし、睡眠不足になると、心身に大きな影響を及ぼします。
寝不足の状態にあると脳は十分に働きにくくなります。集中力や判断力、記憶力が低下して、仕事や勉強の効率が悪くなり、ケアレスミスが増えたり意欲の低下を引き起こしたりする場合もあります。
寝不足が続くにつれて、ストレスは増えていきます。睡眠中は、ストレスから体を守るためのコルチゾールと呼ばれるホルモンが多く分泌されます。そのため、寝不足が続くとコルチゾールの分泌量が低下し、ストレスを感じやすくなってしまうのです。
免疫機能は睡眠時に維持され、強化されます。ところが、睡眠不足に陥ると、傷んだ細胞を修復する成長ホルモンが十分に分泌されません。そのため、寝不足が続くと免疫機能が低下するケースもあります。疲れをとり、風邪などの病気に負けないためには、体が本来持っている免疫機能を維持させる睡眠が欠かせないのです。
慢性的な睡眠不足に陥ると、高血圧や糖尿病、心筋梗塞や狭心症といった生活習慣病のリスクが高くなることがさまざまな研究から明らかになっています。たとえば、眠りが浅い人や夜遅くまで起きている人は交感神経が優位になり、血圧が高い状態が続くため、慢性的な高血圧を引き起こしやすくなるのです。また、睡眠が5時間未満の人は、糖尿病のリスクが2.5倍になるとの報告もあります。
出典:Arch Inteern Med. 2005 Apr 25;165(8):863-7/National Library of Medicine疲れをとるには、単に眠ればいいわけではありません。睡眠時間がどれだけ確保できているのか、良質な睡眠はとれているかが、重要なポイントです。
睡眠でまず大事なのは、睡眠時間の確保です。日中に眠くなる、仕事や学校のない週末になると平日よりも長く寝てしまうといった場合には、睡眠時間不足の可能性があります。必要な睡眠時間は年齢によって異なり、日本では厚労省から2023年に理想的な睡眠時間の目安が公表され話題になりました。
全米睡眠財団(NSF)は、次の睡眠時間を推奨しています。
厚生省の調査では、実際に得られている睡眠時間は理想よりも短いと指摘しています。男性の30~50歳代と女性の40~50歳代では、6時間未満の睡眠しかとれていない割合が4割を超えているのです。
自分の睡眠時間と比較してみて、不足している場合には、疲労回復が十分にできていない可能性があります。できるだけ睡眠時間を増やすように心がけましょう。
睡眠不足が心身に及ぼす影響については、以下の記事で詳しく説明しています。
疲労回復のためには、睡眠時間をしっかり確保するだけでなく、睡眠の質を高めるのも重要です。十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、「疲れがとれない」「体がだるい」「昼間に眠くなる」といった症状は、睡眠の質が低下しているサインです。
では、質のよい睡眠とは一体どのような睡眠でしょう?ポイントは3つあります。
睡眠の質は、体内の修復や体温調節に関連するホルモンの分泌と関係があり、体内の代謝活動を促進させて、自律神経のバランスを整える役割も果たしています。つまり、睡眠の質が向上するほど、心身の回復力が高まるのです。
疲労を回復するには、食生活や生活習慣にヒントがあります。取り入れたい3つの習慣と、逆に避けるべき習慣をお伝えしますので、「寝ているのに疲れがとれない」「睡眠の質を上げたい」方は、ぜひ参考にしてみてください。
疲労回復に役立つ栄養素として知られているのは、炭水化物やたんぱく質です。炭水化物は、米・パン・麺類・いも類に豊富に含まれており、体内でブドウ糖に分解され、筋肉に蓄えられている糖の一種であるグリコーゲンになります。グリコーゲンはエネルギー源として使われ、蓄積量が増えると疲労を感じるのが遅くなると言われています。
一方、筋肉の修復や成長を促進させるのが、魚や肉などに含まれているたんぱく質です。炭水化物はエネルギー供給に、たんぱく質は筋肉に使われるため、疲労回復に効果的なのです。
また、エネルギー代謝を促す重要な役割を担っているのが、ビタミンB群です。中でもビタミンB1は疲労回復ビタミンと呼ばれ、糖分をエネルギーに変えて筋肉の疲労を防ぎます。
軽い有酸素運動や散歩、ストレッチなどで体を動かすと、全身の血行がよくなり、疲労回復が早まります。ただし、1回だけの運動では効果を得にくいので、定期的な運動習慣が大切です。
継続すると、日中に体力を消耗するため眠りにつきやすく、深い眠りを得られるようになり、心身の疲労を取り除く効果も期待できます。日頃から運動をしている方は寝つきがよくなる、夜中に目が覚めることが少なくなる、といった睡眠の質の向上が見られるとの報告もあります。日常に適度な運動を取り入れてみましょう。
入浴すると心身ともにリラックスでき、ストレスがたまって疲れた体を癒してくれます。
手や足先の末梢血管が拡張し、血行がよくなります。凝り固まった筋肉がほぐれ、疲労を回復しやすくなるのです。
また、入浴は、疲労回復するのに大切な「眠りの質」を高めてくれます。人は、体温が下がる過程で眠くなっていきます。ぬるめのお湯につかり、体内深部の温度を一時的に上げると、その後少しずつ体温が下がっていくタイミングで眠りにつきやすくなるのです。
就寝直前の入浴は寝つきが悪くなりやすいので、寝る2~3時間前には入浴しましょう。
良質な睡眠をとれない状態が続くと、疲労は蓄積されていきます。以下の生活習慣がある場合、睡眠の質が低下しているかもしれません。なるべく早めに改善しましょう。
適度な運動は心地よい疲労感で眠気を誘いますが、激しい運動は体を過度に刺激してしまいます。とくに就寝前の運動は、心身を興奮させて睡眠を妨げてしまうので禁物です。
コーヒー・紅茶・緑茶・チョコレートなど、カフェインが多く含まれている飲料や食品は、適度に摂取する分には疲労回復を促しますが、過剰な摂取は不眠の原因となります。眠りにつきにくい、途中で目がさめる、睡眠時間が長くなるといった症状を引き起こすため、睡眠の質が悪くなってしまうのです。寝る6時間前には、カフェインの摂取を控えましょう。
アルコールは、適量であれば疲労回復に効果があると言われています。しかし、過剰なアルコール摂取や、日常的にアルコールを摂取している場合には、睡眠に悪影響を及ぼす可能性が高まります。アルコールを飲むと一時的に眠たくなりますが、途中で目が覚めたり、早く起きてしまったりしやすくなるため、注意してください。
スマートフォンから発せられるブルーライトは、眠気を誘うメラトニンの分泌を低下させます。寝る2時間前から使用を控えるのが理想です。
わたしたちの体には、1日のリズムを刻む「体内時計」が備わっていて、体温や血圧などを調整し、お昼や夕食時にはお腹がすき、夜になると眠くなるようにコントロールしてくれます。しかし、睡眠不足が続くと、体内時計が狂ってしまうのです。
すると「夜眠れない」「睡眠時間十分なのに朝起きられない」といった、よい睡眠を得られない状態に陥り、疲労が蓄積されていきます。
睡眠は、明日への活力をつくる、疲労回復のための大切な時間です。リズムが整えば、日中のパフォーマンスが上がり、夜には心地よい眠りを得られやすくなります。睡眠時間と質のどちらも重視して、生活習慣を見直し、疲労感のない清々しい毎日を過ごしましょう。
睡眠は私たちの健康と美容を維持していくための大切な生活習慣です。睡眠不足が続くと、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、認知症、うつ病などの精神疾患の発症リスクが高まることが多くの研究から明らかになっています。
睡眠には、心身の疲れを休め、体のダメージを修復し、さらに記憶の整理をするという3つの重要な役割があります。健康と美容のためにはどれも欠かせない役割のため、日頃から良質な睡眠をとるような生活習慣を心がけましょう。
寝つきが悪い、夜中に起きてしまう、といった症状に悩まされている方はぜひご紹介した習慣づくりを試してみて下さい。どうしても寝つきが悪い時は、市販薬を活用するのも一つの方法です。
ただし、睡眠の質の低下はうつ病や甲状腺疾患など心身の病気によって引き起こされている場合もあります。生活習慣を改善しても良質な睡眠がとれないときは、医療機関での相談をおすすめします。
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