監修医師齋藤幹
さいとう内科・循環器クリニック院長
公式HP:https://saito-heart.com/
1996年北海道大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院にて内科研修。
その後東京大学医学部付属病院(循環器内科)や専門病院での経験を経て、2019年に「さいとう内科・循環器クリニック」を開業。
医学博士、内科認定医、総合内科専門医、循環器専門医・指導医、臨床研修指導医
血中のブドウ糖濃度(血糖値)が高いと、血管に負担がかかり日常生活に支障をきたしてしまいます。運動は太りづらい体作りに役立つのはもちろん、血糖値を下げる方法としても重要です。
ただ、取り入れるタイミングや実施するポイントを把握せずに始めてしまうと、効果を実感できないかもしれません。あなたに合ったペースと運動で数値を徐々に落として、健康な体を作りましょう。
私たちの血液に含まれるブドウ糖の濃度を「血糖値」といいます。炭水化物を含む食品(ご飯やパン)を摂取すると、体内で分泌される消化酵素によってブドウ糖に分解されて、血糖値が上昇するのです。
血糖値はすい臓から分泌される2つのホルモンで調整されます。私たちの体は血糖値が低いときは「グルカゴン」、高いときは「インスリン」を分泌して、正常な血糖値を保っています。
高血糖とは「血糖値が基準値よりも高い状態」を指します。健常者の場合、絶えず細胞がブドウ糖を取り込んでエネルギーに変換しています。
ところが運動不足や肥満によって、インスリンの効きが悪くなると、ブドウ糖がうまく細胞に取り込まれず、血液中に残った状態が続くのです。
※1:食後10時間以上経過したときの血糖値
※2:血中のブドウ糖とヘモグロビンが結合している割合
血糖値が高くなると、血液の流れが悪くなり血管に負担をかけてしまいます。血管に負担がかかり続けると、日常生活に支障が出てしまう恐れもあるのです。
高血糖(空腹時血糖100 mg/dl~)の方は、健康的な体を保つためにも正常値まで数値を落とす必要があります。
血糖値が気になる方は、日常生活に運動を取り入れてみましょう。運動が血糖値を下げるのに効果的な理由を2つ紹介します。
体を動かすためにはATP(アデノシン三リン酸)が必要になります。ATPはブドウ糖(グルコース)から作られており、運動をすると血中のブドウ糖を筋肉に取り込む働きが強くなるので、血糖値が低下します。
運動で筋肉量が増えると基礎代謝量も上がるため、太りづらい体になります。内臓脂肪が増えてしまうと、インスリン感受性(※)が低下してしまい、血糖値が高くなるのです。
継続的な運動で太りづらい体を作るのは、血糖値を下げる観点から見ても重要です。
※インスリン感受性とは
膵臓にあるランゲルハンス島β細胞から分泌されるホルモン「インスリン」は、骨格筋・脂肪細胞・肝臓といった標的臓器に、糖分の吸収を促すよう働きかける役割を持っています。標的細胞がインスリンに対して反応することを、「インスリン感受性」といいます。
運動のタイミングは食後1時間後がおすすめです。食前・食後の運動の注意点を確認しておきましょう。
摂取した食べ物は小腸で栄養素を吸収するために体の各器官が消化酵素で分解を進めるため、胃腸周辺に血液が集中します。
食後すぐに運動をしてしまうと、消化に利用されるはずだった血液が筋肉にも分散してしまい、消化不良になってしまうのです。
食前の運動は脂肪をエネルギー源として消費しやすくなるので、ダイエットに効果的ですが、お腹が空いているときは避けましょう。
血糖値が低い状態で運動をすると、低血糖で体が思うように動かなくなる恐れもあります。食後の血糖を効率よく体に取り込むためにも、運動はなるべく食後1時間後に実施しましょう。
血糖値を下げる運動は「有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)」と「レジスタンス運動(全身の筋肉を鍛える)」の2種類に分けられます。血糖値が気になる方は参考にしてみてください。
ウォーキングやジョギングなど全身を動かす有酸素運動は、レジスタンス運動と比べて負荷が軽いため、運動習慣のない方でも気軽に始められます。
有酸素運動で体を動かすと、血中のブドウ糖や、肝臓・筋肉に蓄えられているグリコーゲンをエネルギー源として消費してくれます。
有酸素運動は中程度(ややきつい)で週3回以上・合計150分を目安に実施しましょう。
1回の運動を20分以上継続すると、体についている脂肪をエネルギー源として消費しやすくなるため、1回の運動時間を長くするとより効果的です。
全身の筋肉を鍛えるレジスタンス運動は、基礎代謝を高めつつ血糖値を下げたい方におすすめです。基礎代謝が上がると消費カロリーも増えるため、体脂肪が落ちやすくなり太りづらい体になります。
レジスタンス運動は「軽い」と感じる負荷で、以下の運動を週2~3回実施しましょう。有酸素運動のように毎日実施すると、筋肉が十分に回復せず思わぬ怪我につながってしまいます。
長期的に続けるためにも必ず1~2日は筋肉を休めましょう。
仕事や家事で運動を続けられない方は、階段を意識して上ったり、通勤時に歩いたりして、毎日の身体活動量を増やしてみましょう。
時間がないときは、ラジオ体操など室内でできる簡単な運動を取り入れるとよいでしょう。
室内で運動を実施する場合、「立ったままの姿勢を5分間キープする」「座ったまま片足を上げてキープする」などでもOKです。
運動を続ける自信がない方は、毎日継続できそうな負荷から始めてもよいでしょう。
有酸素運動の一種である「エクササイズ」も血糖値を下げるための効果的な運動です。今回はZARDの代表曲「負けないで」に合わせて体を動かすエクササイズを紹介します。
1回の動画運動量の目安(※体重60kgのひとの場合)
活動強度:6.8METs / 運動時間:3分 / 消費カロリー:21.4kcal
二の腕のたるみに効果的な動作はもちろん、曲のリズムに合わせて体全身を動かすため、1セット3分間だけでも達成感を味わえます。エクササイズの途中には休憩時間(ストレッチ)も設けられているため、運動経験のない方でも1セット完走できる内容となっています。
エクササイズ全体を通して激しい動きが多いので、後半になると腕や足が疲れて、思うように動かなくなる可能性があります。無理に体を動かそうとすると、足腰を痛めたり体調が悪くなったりするので、体力が追いつかない方は、無理に完走しようとせず一旦休みましょう。
1セットでも十分な運動量ですが、慣れてきた方はカロリー消費量を増やすためにもセット数を追加してみましょう。また、血糖値だけでなく体脂肪を落としていきたい方は、エクササイズ前にスクワットや腕立て伏せなどの筋トレを入れると、効率的にカロリーを消費できます。
血糖値を下げるのに効果的な運動ですが、実施する際のポイントを把握しておくと、体に負担をかけない長期的な運動習慣が実現するでしょう。
運動を始める前にあなたに合った動きやすいウェアやシューズを揃えておきましょう。運動に合わない服装で始めても、動きづらさから効果が薄くなってしまいます。
また、履きなれていないシューズが原因で転倒してしまい、思わぬ怪我につながる可能性も考えられます。
動きやすい服装を用意してから運動を始めましょう。
水泳はレジスタンス運動と有酸素運動を同時にこなせるため、血糖値を下げる運動としておすすめです。水の中は「浮力」があるため、関節や筋肉への負担を減らしながら運動できます。
また、水の抵抗に逆らいながら体を動かすため、少ない動きでも効率的にエネルギーを消費できるのです。
気分転換にもなるので、月1~2回程度取り入れてみるのもよいでしょう。
運動前後のストレッチは忘れずに実施しましょう。運動前にストレッチをすると、筋肉や関節の可動域が上がり、怪我のリスクを下げた状態から運動を始められます。
運動後にストレッチをすると、筋肉の疲労が抜けやすくなり翌日以降の疲れも残りづらくなります。長期的に運動を続けるためにも、ストレッチは毎日行いましょう。
以下のチェック項目に当てはまる方は、運動を始める前に医師に相談してください。
また、高齢の方は運動で関節や筋肉を痛めるリスクが高いので、ラジオ体操やジョギングなど軽い負荷の運動から始めるとよいでしょう。
有酸素運動やレジスタンス運動は、血糖値を下げるのはもちろん、太りづらい体作りに効果的です。
血糖値を下げるためには運動も大切ですが、食べすぎ、アルコールのとりすぎ、喫煙など生活習慣の見直しも重要です。
定期的な運動と生活習慣の改善で血糖値を下げて、健康な体を保ちましょう。
血糖値には運動が非常に重要です。1回あたり最低30分程度の運動が理想的とされていましたが、最近では食後2~5分程度の時間でも血糖値を下げることが報告されています
※The Acute Effects of Interrupting Prolonged Sitting Time in Adults with Standing and Light-Intensity Walking on Biomarkers of Cardiometabolic Health in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis (Sports Medicine 2022年2月11日)。
まとまって運動をする時間が取れない方は、こまめな短時間の運動を生活に取り入れましょう。
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