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薬膳とは?漢方とはどう違うの?基礎となる五行・五味の考え方から身体の状態に対応した薬膳食材まで紹介

2023/11/29

薬膳と聞くと、体によいイメージを持っている人が多いでしょう。でも、具体的にどのような料理なのか知っていますか?薬膳と漢方は、どう違うのでしょう。
実は、薬膳と漢方は同じ考えに基づいて組み立てられています。薬膳は食べる人の身体の状態に合わせた料理で、特別な材料がなくてもスーパーの食材で手軽に作れるのです。
薬膳の考え方や漢方との違い、五行・五臓に対応した薬膳食材について紹介します。

 

薬膳とは

漢方の考えのもと、食べる人の体質や症状に合わせて、食材を組み合わせた食事が薬膳です。季節や寒さ・暑さ、乾燥なども考慮して作る場合があります。薬膳スープ・薬膳カレー・薬膳鍋・薬膳粥はよく知られている薬膳料理ですが、他の料理でも食べる人に合わせて食材を選び、組み合わせて料理すれば、立派な薬膳です。

薬膳によるセルフケアで健康維持

自分で自分の体をケアし、健康に役立てるのをセルフケアと言います。自分の体を考え、普段の食事を組み立てる薬膳は、4000年の歴史があるセルフケアです。薬膳を知り、食生活に取り入れれば、自分や家族の体のケアに役立ちます。

薬膳と漢方の違い

古くから、薬食同源・医食同源の言葉があるように、薬膳では食材を食薬とも呼びます。漢方薬と薬膳の間にはっきりした境界はありません。ただ、漢方薬の方が効き目が強く、病気の治療に焦点をあてていると言えます。一方、薬膳は、体質にあった方法で、日常の食事から病気を予防する側面(未病先防:病気になる前の段階で治療する考え)が強いのです。

 

東洋医学の五行に基づいた食事の考え方

東洋医学の考えから食事を組み立てて薬膳を作るにあたり、知っておくべき概念がいくつがあります。

陰陽

陰陽五行論では、体の気血水のうち、血と水を「陰」、気を「陽」と考えます。つまり、陰の食材は「血と水」に関わる食材です。漢方では、「補血」(血を補う)「滋陰」(体を潤す)「生津」(体液を作る)などの食材が該当します。陽の食材は「気」に関わる食材で、「補気」「理気」などが該当します。

五行・五味

陰陽五行論では、体の機能を五行の考えに基づいた「五臓」の概念に分類し、五臓それぞれに対応する食材の味を「五味(酸苦甘辛鹹)」としています。五味は、食材の機能を味の名前で分類しているので、食材そのものの味と五味は少し異なる場合があります。たとえば、ピーマンは苦い味をしていますが、唐辛子などと同じ辛味に属し、甘くない米・小麦・イモ類は甘味に含まれているのです。

五臓と五味の関係

五臓には、それぞれに対応する五味があります。

・肝=酸味
肝(情緒や自律神経)が高ぶりすぎるときは、酸味をとるとよいとされています。果菜や果物などが代表的な食材です。

・心=苦味
心(鼓動や精神)が高ぶりすぎるときは、苦味をとるとよいとされています。山菜・木の芽・ゴーヤなどが代表的な食材です。

・脾=甘味
脾(消化器官)が弱っているときは、甘味をとるとよいとされています。ただ、砂糖などの甘味料のとりすぎは脾を弱らせるとも言われており、穀類やイモ類など、でんぷん質の食べ物が推奨されています。

・肺=辛味
肺(気管支全般)が不調なときは、適度に辛味をとるとよいとされています。唐辛子の辛味だけでなく、生姜・みょうが・らっきょう・にんにく・わさびなどの辛味も含みます。

・腎=鹹味
腎(腎臓や生殖能力)が弱っているときは、鹹味(かんみ、塩辛い味)をとるとよいとされています。鹹味には多くの海産物や海藻が分類されているので、塩分だけでなくミネラルも豊富な食材だと考えるとわかりやすいでしょう。

五行・五臓(帰経)

漢方および薬膳では、五行に基づき、各食材がどの五臓に入るかを分類し、五臓と五味の関係を帰経(きけい)で表します。
目的の五臓がはっきりしていれば、ほとんどの場合は帰経の食材をメインに使います。また、ひとつの食材が複数の帰経を持つのが一般的です。

 

五臓に対応した体質とおすすめの薬膳食材

薬膳とは?漢方とはどう違うの?

五臓が「実証」か「虚証」かで、適した食材は異なります。実証とは体にとって余計なものが多い状態で、虚証とは必要なものが不足している状態です。

漢方で言う肝は内臓の肝臓ではなく、情緒・自律神経・血の貯蔵機能をすべて含めた概念です。

実証:疏肝理気(そかんりき)

肝が実証だと、イライラして怒りっぽくなったり、落ち込んだり、ガスでお腹が張ったりします。肝の気の巡りを伸びやかにする、疏肝理気の食材が必要です。

【疏肝理気の食材】
そば・シソ・玉ねぎ・にんにくの茎・ピーマン・三つ葉・みょうが・ローリエ・きんかん・グレープフルーツ・すだち・文旦・みかん・ゆず皮・ターメリック(うこん)・みかんの皮・フェンネルシード(ウイキョウの種)・カモミール・ラベンダー・醸造酒・ワイン

虚証:補血、平肝、養肝

肝臓が虚証だと、落ち込む、眼精疲労がひどくなる、爪が弱くなる、生理不順(無月経)になる、といった症状が出ます。肝は血を貯める五臓なので、体を巡って栄養を届ける血が足りなくなると、肝が弱ったり、爪や子宮に使う血液の栄養が不足したりするのです。肝自体を安らかにし、養う必要が出てきます。

【補血の食材】
黒豆・明日葉・枝豆・黒きくらげ・しめじ・にんじん・パセリ・ほうれん草・よもぎ・ぶどう・黒ごま・松の実・あさり・穴子・イカ・イワシ・うなぎ・牡蠣・カツオ・鮭・サバ・タコ・タチウオ・タラ・ひじき・ブリ・まぐろ・鴨肉・牛肉・牛レバー・豚レバー・鶏レバー・卵・うずらの卵・卵黄

【平肝の食材】
アロエ・菊花・クレソン・ししとうがらし・せり・セロリ・豆苗・トマト・ピーマン・マッシュルーム・穴子・くらげ・ラベンダー

【養肝の食材】
干ししいたけ・いちご・カシス・うなぎ・ししゃも・すずき・牛レバー・豚レバー・鶏レバー・ローヤルゼリー

漢方で言う心は、内臓の心臓のことではなく、精神・意識・鼓動などを指す概念です。

実証:清心、養心、安神、養血

心が実証だと、顔が赤くなったり、胸の煩悶があったり、興奮しすぎたり、不眠になったりします。心熱を冷やしつつ心を養うのが大事です。また、精神を落ち着かせて、血を養う必要があります。

【清心の食材】
小豆・緑豆・アロエ・タラの芽・ツルムラサキ・緑豆もやし・ゴーヤ・わらび・柿・スイカ・メロン・マテ貝・牛タン・卵白・緑茶

【養心の食材】
小麦(胚芽を含む小麦がより適している)・ココナッツ・カカオ・ひじき・豚のハツ・烏龍茶・紅茶・コーヒー・ウイスキー

【安神(あんしん、あんじん)の食材】
春菊・チンゲンサイ・百合根・ローズマリー・あさり・あんきも・イワシ・牡蠣・カタクチイワシ・ホタテ・豚のハツ・烏龍茶・緑茶・紅茶・カモミール・コーヒー・ジャスミン・ラベンダー・ワイン

※養血の食材については、補血の食べ物を参考にしてください。

虚証:養心、安神、補血

心が虚証だと、顔色が悪く、不安感が強くなり、動悸や物忘れが起きやすくなります。心を養いつつ、精神を落ち着かせる必要があります。また、心を養うには十分な血も必要なので、補血の食材をとりましょう。

漢方で言う脾は、内臓の脾臓のことではなく、胃腸や脾臓を含めた身体の消化吸収機能を指す概念です。

実証:化湿(けしつ)、きょ湿 (きょしつ)、健脾

脾が実証だと、冷たい食べ物や脂っこい食べ物の食べ過ぎで胃の働きが悪くなります。胃が冷えて痛い、頭が重い、だるい、悪心がして吐き気がする、下痢をする、むくみやすい、といった状態に。脾(消化器官)に溜まった水(湿)を抜いて動きをよくし、健康を高める必要があります。

【化湿・きょ湿の食材】
いんげん豆・枝豆・キャベツ・空芯菜・さやいんげん・セロリ・そら豆・にんにくの茎・バジル・豆もやし・モロヘイヤ・よもぎ・ココナッツ・しじみ・山椒・唐辛子

【健脾の食材】
うるち米・オートミール・きび・黒米・赤米・玄米・米麹・発芽玄米・はとむぎ・もつ米・さつまいも・じゃがいも・山芋・いんげん豆・黒豆・納豆・大豆・あさつき・枝豆・えんどう豆・オクラ・かぼちゃ・カリフラワー・ブロッコリー・小松菜・さやいんげん・そら豆・チンゲンサイ・にんじん・にんにく・にんにくの茎・ネギ・白菜・マッシュルーム・ローズマリー・アボカド・干し柿・ココナッツ・さくらんぼ・りんご・アジ・イワシ・カタクチイワシ・ブリ・鴨肉・牛肉・砂肝・卵黄・うずらの卵

虚証:健脾、補気、温中

脾が虚証だと、食欲が出ない、疲れやすい、食べても太れない、元気が出ない、便通が不調といった状態になります。健脾だけでなく、気を補いながら中(お腹)を温める必要があります。

【補気の食材】
赤米・あわ・うるち米・きび・玄米・米麹・もち米・さつまいも・じゃがいも・山芋・大豆・豆腐・納豆・枝豆・あさつき・アスパラガス・えんどう豆・かぶ・かぼちゃ・黒きくらげ・さやいんげん・しいたけ・しめじ・なめこ・まいたけ・にんにくの茎・モロヘイヤ・アボカド・ココナッツ・さくらんぼ・パイナップル・ぶどう・カカオ・穴子・イワシ・うなぎ・エビ・カタクチイワシ・カツオ・鮭・サバ・早良・タコ・たら・ニシン・ブリ・まぐろ・牛肉・牛すじ・鶏肉・豚肉・うずらの卵・水飴・酒粕・味噌・甘酒・ココア

【温中の食材】
なた豆・かぶ・ししとうがらし・高菜・にんにく・みょうが・わさび・鮭・ニシン・鶏肉・黒砂糖・からし・こしょう・酒粕・山椒・唐辛子

※健脾の食材については脾の実証を参考にしてください。

漢方で言う肺は、内臓の肺そのものでなく、呼吸機能や気管支全体を指します。

実証:化痰(けたん)、宣肺、止咳、滋陰、潤肺

肺が実証だと、余計な水分(痰)が溜まり、気管支の機能が失調します。すると、痰のからんだ咳、痰、胸の苦しさ、むくみなどが起こります。痰を除いて(化痰)肺の働きをよくし、咳を止めるのが重要です。さらに、肺は乾燥を嫌うので、陰液(体液)を増やし、肺を潤す必要もあります。

【化痰の食材】
玄米・こんにゃく・里芋・豆乳・湯葉・明日葉・えのき・かぼちゃ・からし菜・春菊・生姜・大根・たけのこ・玉ねぎ・なめこ・にんにく・ふき・水菜・三つ葉・ラディッシュ・梅・オリーブ・かぼす・きんかん・梨・びわ・みかんの白い筋・ゆず皮・レモン・アーモンド・カシューナッツ・あおさ・あさり・寒天・くらげ・昆布・ししゃも・海苔・はまぐり・もずく・わかめ・からし・こしょう・烏龍茶・プーアール茶・焼酎

【宣肺の食材】
からし菜・高菜

【止咳の食材】
湯葉・アスパラガス・かぶ・黒きくらげ・にんにく・百合根・あんず・いちじく・梅・オリーブ・梨・文旦・桃・アーモンド・くるみ・松の実・落花生・くらげ・海苔・オリーブオイル・氷砂糖・はちみつ・水飴・からし・カモミール

【滋陰の食材】
黒米・山芋・黒米・アスパラガス・エリンギ・白きくらげ・にんじん・ほうれん草・モロヘイヤ・カシス・黒ごま・イカ・ホタテ・牡蠣・くらげ・ぶり・マテ貝・鴨肉・豚肉・卵・卵黄・チーズ・ヨーグルト・鶏の油・氷砂糖

【潤肺の食材】
山芋・黒きくらげ・白きくらげ・クレソン・春菊・ズッキーニ・百合根・あんず・いちじく・柿・すだち・梨・バナナ・びわ・みかん・りんご・アーモンド・銀杏・松の実・落花生・氷砂糖・水飴・メープルシロップ

虚証:滋陰、止咳、補肺

肺が虚証だと、空咳や息切れといった症状が出たり、風邪を引きやすくなったりします。

【補肺の食材】
きび・あさつき・かぶ・ブロッコリー・まいたけ・れんこん(火を通した場合)・牛の胃(ガツ、ハチノス、センマイ、アカセンマイ)・うずらの卵・チーズ・バター・はちみつ

※滋陰・止咳の食材については、肺の実証を参考にしてください。

漢方で言う腎は、内臓の腎臓ではなく、尿を作る機能や・代謝機能、生殖機能をすべて含めた概念です。腎は余計な要素が多い「実証」状態にはなりません。
必要な要素が足りない「虚証」状態のみになる五臓です。

虚証:補腎、益腎、補陽

腎が虚証だと、発育不良・精力不足・不妊・老化・むくみ・冷え・腰痛などを生じるとされています。腎を補い、体を温める「陽」を補うのが大事です。

【補腎・益腎の食材】
あわ・黒米・小麦・山芋・黒豆・なた豆・枝豆・カリフラワー・ブロッコリー・キャベツ・ごぼう・干ししいたけ・なめこ・にら・芽キャベツ・モロヘイヤ・ブルーベリー・カシス・プルーン・カシューナッツ・栗・くるみ・黒ごま・松の実・いくら・うなぎ・エビ・ホタテ・カツオ・ししゃも・鯛・ムール貝・鶏肉・鶏レバー・豚肉・ココナッツオイル・鶏の脂・ローヤルゼリー・クローブ

【補陽の食材】
ニラ・エビ・まぐろ・フェンネルシード(ウイキョウの種)・クローブ・シナモン・八角・ウイスキー

 
薬膳を日常に取り入れるには

薬膳は、一人ひとりの体質や症状に合わせて食材を選び、組み合わせて調理するのが大切です。漢方の視点から体質と症状を見極め、最適な食材を選べば、スーパーで手に入る食材でも十分作れます。自分や家族の健康維持のために、ぜひ、毎日の食生活に薬膳を取り入れてみてください。

  • 田中彩

    アロマ・ハーブ・薬膳・漢方ライター田中彩

    「紅生姜」の名義でハーブ・薬膳・漢方を中心に書くWebライター。植物と昆虫の研究で修士号を取得。農分野で研究員として働いた経験とバイオ系で遺伝子検査や抗体精製などに関わった経験あり。 薬膳コーディネーター、メディカルハーブセラピスト、アロマ&ケアスペシャリスト、紅茶検定中級の資格あり。理系として、研究論文(英語含む)、書籍を参考に執筆するよう心がけている。