アロマ・ハーブ・薬膳・漢方ライター田中彩
「紅生姜」の名義でハーブ・薬膳・漢方を中心に書くWebライター。植物と昆虫の研究で修士号を取得。農分野で研究員として働いた経験とバイオ系で遺伝子検査や抗体精製などに関わった経験あり。 薬膳コーディネーター、メディカルハーブセラピスト、アロマ&ケアスペシャリスト、紅茶検定中級の資格あり。理系として、研究論文(英語含む)、書籍を参考に執筆するよう心がけている。
漢方や東洋医学について調べると、五行(ごぎょう)や五臓(ごぞう)などの言葉がよく出てきます。しかし、どのような意味なのか、よくわからない方もいるでしょう。五臓とは、五行に基づき、体の機能を肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)の5つに分類した概念です。五臓の中のひとつ、「肝」について、働きと特徴をわかりやすく解説します。また、肝の不調によい漢方薬や食材も紹介しますので、ぜひ参考にしてくださいね。
五臓のひとつ「肝」について説明する前に、五行と五臓について理解しておきましょう。
万物は木・火・土・金・水の基本五元素からなるとする考え方があり、人体の機能や働きも五行で分類できます。
木・火・土・金・水には「相生」(そうせい)関係と「相克」(そうこく)関係があります。相生は、水が木を成長させ、木をこすると火が生じるなど、五行のうちのひとつが別の五行に対して促進や養成をする関係です。相克は、木は土から栄養を吸収し、金(金属)は斧として木を切り倒すなど、相手に対して抑制や制約をする関係です。五行で分けた人体の機能や働きも同様の関係を持っています。
体の機能や働きを五行で分類したのが五臓です。肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)があり、肝=木・心=火・脾=土・肺=金・腎=水に対応します。五臓にも相生関係と相克関係があります。
肝臓そのものではなく、自律神経・情緒・血を貯めておく機能などを指します。肝は腎(体の精力を貯める五臓)の力によって助けられ、肝の力は心(鼓動や精神に関わる五臓)を助ける相生関係があります。体の精力の有無が自律神経に関わったり、自律神経が心臓の鼓動に影響したりする状態を考えるとわかりやすいでしょう。
また、相克関係では、肺の力が強いと肝は抑制され、肝が強いと脾を抑制します。呼吸器の異常でつらくて気分が落ち込んだり、イライラや落ち込みが食欲に影響したりする状態を考えるとわかりやすいでしょう。
肝は五行において木に該当するので、のびのびと広がるのを喜びます。逆に、抑圧やストレスを嫌います。
肝の働きは主に2つあります。
体中に気(体を温め動かすエネルギー)を巡らせる作用です。情緒の活動をスムーズにしたり、消化吸収を滞りなく行ったりするのと関係があります。ストレス・怒り・緊張などで疏泄作用がうまくいかないと、肝は失調し、気が巡らなくなり、イライラ・落ち込み・情緒不安定・食欲不振・胃の痛み・動悸・手足の冷え・頭痛・めまいなどが現れます。
血を貯蔵し、体の状態に合わせて血流をコントロールする作用です。心身の状態・運動量・環境に合わせて常に血の総量を調節しています。血の不足によって現れる症状は、めまい・ふらつき・髪や肌のパサつきなどです。また、血が不足すると肝を十分に機能させる血が確保できなくなるので、蔵血が十分に行われないだけでなく、肝の疏泄作用もうまくいかなくなります。
肝は「目・筋・爪」と深く関わっています。
五臓がそれぞれ関わる感覚器を五官(ごかん)と呼びます。肝の五官は目で、「肝は目に開竅(かいきょう)す」といいます。開竅は「詰まった穴の通りをよくする」との意味です。つまり、「肝は目に開竅す」は、肝の状態は穴である目に現れるのを意味します。肝の働きが高ぶりすぎると目の充血が起こり、肝の蔵する血が不足すると、ドライアイや眼精疲労が起こります。
五臓がそれぞれ司る器官を五主(ごしゅ)といいます。肝の五主は筋(筋肉)です。肝の働きが高ぶりすぎると筋肉のけいれんや震えが起きます。また、肝の蔵する血が不足すると、筋が固くなる・引きつれたように痛む・運動機能が低下する・手足がしびれるといった症状を引き起こします。
五臓それぞれの変調が現れる部位を五華(ごか)といいます。肝の五華は爪です。肝が血を十分に蔵していれば、爪は血色がよく、丈夫です。しかし、肝の蔵する血が不足すると、爪の血色は白く薄くなり、爪自体も薄く、割れたり反り返ったりします。
肝の不調で現れる症状は、主に2つのカテゴリに分けられます。
肝の、のびのびと気を巡らせる作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。
疏泄作用の失調は、 疏肝理気(そかんりき)の作用がある漢方薬で対処します。疏肝理気とは、肝の疏泄作用を治しつつ、気の巡りをよくするとの意味です。代表的な漢方薬は、四逆散(しぎゃくさん)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・抑肝散(よくかんさん)・釣藤散(ちょうとうさん)・大柴胡湯(だいさいことう)・柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)などです。
肝に貯めておく血が不足すると、肝の疏泄作用が失調するだけでなく、血の不足によって以下の症状が現れやすくなります。
蔵血作用の失調は、血を補う漢方薬で対応します。代表的な漢方薬は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・帰脾湯(きひとう)・四物湯(しもつとう)・十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)・人参養栄湯(にんじんようえいとう)などです。きゅう帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)は血を補いつつ、気血の巡りをよくします。
血を補う生薬の多くは、胃腸に負担をかけてしまいます。そのため、胃腸が弱い人は、消化機能を高める四君子湯(しくんしとう)・六君子湯(りっくんしとう)・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を先に飲んだり、比較的胃腸に負担をかけにくい当帰芍薬散や帰脾湯を飲んだりするのがおすすめです。
肝のためにとりたい食べ物は3種類あります。
・酸味の食べ物
・疏肝理気(そかんりき)の食べ物
・血を補う食べ物(補血(ほけつ)、養血(ようけつ))
五行において、酸味のある食べ物は肝を整えます。五行でいう「酸味」は食べ物の機能を指しているので、必ずしも酸っぱい食べ物とは限りません。酸味のある食べ物で、手に入りやすいのは以下のとおりです。
小豆・ツルムラサキ・トマト・レモングラス・アボカド・あんず・いちご・梅・オリーブ・柑橘類・カシス・かりん・キウイフルーツ・グアバ・クランベリー・ザクロ・サンザシ・スターフルーツ・すもも・パイナップル・びわ・ぶどう・ブルーベリー・プルーン・マンゴー・桃・ライチ・ラズベリー・りんご
肝の疏泄作用を直したり、気の巡りをよくしたりする疏肝・理気の食べ物で、手に入りやすいのは以下のとおりです。
そば・フェンネル・オレガノ・しそ・タイム・玉ねぎ・チャービル・にんにくの茎・のびる・バジル・ピーマン・松茸・三つ葉・みょうが・レモンバーム・ローリエ・柑橘類・ライチ・カジキマグロ・カルダモン・クミン・ターメリック・ナツメグ・みかんの皮・八角・カモミール・キンモクセイ・バラ(とくにまい瑰花(まいかいか)と呼ばれるバラのつぼみ)・ラベンダー・ジャスミン・醸造酒・ワイン
気の巡りをよくする食べ物の多くは、よい香りがします。香りには、疏肝理気の作用があるので、自分が気に入る香りを生活に取り入れると肝の疏泄作用が整うでしょう。とくに気に入った香りがない場合は、気を巡らせる作用のある柑橘系の香りを食材として使うのがおすすめです。中でも、レモン・グレープフルーツ・オレンジ・ベルガモット(アールグレイの香り)は、多くの人に好まれる香りです。
漢方でいう「血」(けつ)は、血液そのものだけではなく、血液が含む栄養分やホルモンなども含む概念です。鉄分に限らず、タンパク質やミネラル全般、血液を作るビタミン類が豊富に含まれている食べ物が、血を補う補血・養血の食材に分類されます。血を補う食べ物で、手に入りやすいのは以下のとおりです。
黒豆・あしたば・エゴマの葉・枝豆・黒キクラゲ・金針菜(きんしんさい)・しめじ・チャービル・にんじん・パセリ・ほうれん草・よもぎ・カシス・ぶどう・ライチ・龍眼(りゅうがん)・黒ごま・松の実・赤貝・あさり・穴子・アワビ・あんこう・イカ・イワシ・うなぎ・牡蠣・カツオ・鮭・サバ・スズキ・タコ・太刀魚・たら・なまこ・ニシン・はた・ひじき・ブリ・マグロ・マテ貝・マナガツオ・鴨肉・牛肉・レバー類・クジラ肉・豚足・うずらの卵・卵黄・鶏卵
肝は、のびのびと気を巡らせるのを喜び、抑圧を嫌う五臓です。肝が失調すると、自律神経が失調したり、イライラしたり、貧血になったりと、多くの不調を引き起こします。ここで紹介した漢方薬や食材を適切に使用して、肝が喜ぶ毎日を送りましょう。
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