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五行学説における五臓・脾とは?特徴や働き、脾によい漢方薬・食べ物を知って活気にみちた毎日を過ごそう

漢方薬・生薬CHINESE MEDICINE
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2024/03/08

漢方や東洋医学について調べると、五行(ごぎょう)や五臓(ごぞう)といった言葉がよく出てきます。一体どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?
五臓とは、体の機能を「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)」の5つに分類した、五行学説に基づく考え方です。
とくに五臓の中の「脾」は、体を整える機能を指し、脾が元気だと食欲や気力をつけてくれるでしょう。脾の特徴や働き、脾の不調によい漢方薬や食材も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

 

五臓のうちの「脾」とは

まずは、基礎となる五行と五臓、そして五臓のひとつ「脾」についてみていきましょう。

五行とは

万物は、木・火・土・金・水の基本五元素によって構成されるとする考え方で、人体の機能や働きも五行によって分類されるのです。 木・火・土・金・水には、「相生」(そうせい)と「相克」(そうこく)の関係があります。
相生は、火が燃えると土(灰)が生まれ、土から金属が産出するなど、五行のうちのひとつが別の相手に対して促進や養成をする関係です。
相克は、木は土の栄養を吸う、土は水を吸収してせき止めるなど、相手に対して抑制や制約をする関係です。
相生・相克の関係は、五行で分けた人体の機能や働きにおいても、同様にみられます。

五臓とは

体の機能や働きを五行で分けたのが五臓です。肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)があり、「肝=木・心=火・脾=土・肺=金・腎=水」と対応しています。また、五臓にも相生関係と相克関係があるのです。

脾(ひ)とは

五臓における脾は脾臓(ひぞう)自体ではなく、消化吸収機能・内臓を持ち上げる機能・血が漏れ出ないように、体を整える機能を指します。相生関係において、脾は心(体の循環と意識に関わる五臓)の力によって助けられ、脾の力は肺(呼吸や気管支に関わる五臓)を助けてくれるのです。食欲があると気分がよかったり、胃酸過多で逆流性食道炎になると咳が出たりする状態を考えると、関係性がわかりやすいでしょう。
また、相克関係では、肝(自律神経や情緒を司る五臓)の力が強いと脾は抑制され、脾が強いと腎(体の精力を蓄え、成長や老化に関わる五臓)を抑制します。自律神経が高ぶると食欲がなくなる状態を考えると、肝と脾の関係がわかるでしょう。
脾と腎の関係は、脾が高ぶりすぎて腎を傷つけるよりも、腎の力が弱って脾も弱る場合がほとんどです。腎が弱ると体が冷える、胃が冷えると食欲が出なくなる、腸が冷えると下痢をしたりお腹が痛んだりする状態を考えるとわかりやすいでしょう。

 

脾の機能と働きと特徴

脾は、五行の土に対応します。飲食物を受け入れて吸収する作用があるので、乾いている状態を好み、余計な水分を嫌います。お腹に水が溜まった感じがするときに気分が悪くなるのは、脾が余計な水分を嫌うためです。

脾の働き

脾の働きは、主に3つあります。

運化(うんか)作用

飲食物を運び、消化する作用です。脾は食べ物から気(体を温め動かすエネルギー)と血(体に栄養やうるおいを運ぶ赤い液体)を作ります。 脾が不調で運化作用がうまく働かないと、気血が作られません。疲労倦怠感が出たり、顔色が青白くなったり、やせたりします。また、水の巡りもうまくいかなくなるので、むくみが出る場合もあるでしょう。

昇清(しょうせい)作用

上に持ち上げる作用です。脾が飲食物を消化吸収して作った気を、体の上に持ち上げる機能や、内臓下垂を防ぐ機能を昇清作用と言います。脾が不調で昇清作用が衰えると、気が上半身に送られません。食後に眠くなったり、胃下垂になったり、脱肛になったり、下痢になったりします。

統血(とうけつ)作用

血が脈の外に漏れ出るのを防ぐ機能です。脾が不調で統血作用が弱まると、出血しやすくなります。アザなどの皮下出血・血便・血尿が起きやすくなり、女性の場合は月経過多なども起こるでしょう。

脾の特徴と他への関わり

脾は、「口唇」「肌肉」「唇四白」と3つの部分に深く関わっています。

口唇(こうしん)

五臓がそれぞれ関わる感覚器を五官(ごかん)と呼びます。脾の五官は口唇で、「脾は口に開竅(かいきょう)す」と言われています。開竅とは、「詰まった穴の通りをよくする」との意味です。つまり、脾の状態は穴である口にあらわれるのです。脾に熱が溜まって高ぶりすぎると、異常に食欲が出ます。逆に脾が失調すると、栄養不足で血が足りず、唇の色が白くなったり、口内が乾燥して飲み込みづらくなったりします。よだれがあふれるのも、口内の異常が原因です。

肌肉(きにく)

五臓がそれぞれ司る器官を五主(ごしゅ)と言います。脾の五主は肌肉(脂肪と肌ツヤ)です。脾の働きが高ぶりすぎると、肉が多くなります。また、脾が失調すると、栄養の吸収がうまくいかなくなり、肉がやせ、皮膚の色が悪くなるでしょう。

唇四白(しんしはく)

五臓それぞれの変調が現れる部位を五華(ごか)と言います。脾の五華は唇四白(口の周りの白い部分)です。脾に負担がかかると、口の周りに吹き出物が出たり、荒れたりします。

 

脾の不調で現れる症状

脾の不調で現れる症状は、主に3つのカテゴリに分けられます。

運化作用の失調

脾の運化作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・食欲不振・食欲低下
  • ・やせる
  • ・腹痛
  • ・むくみ
  • ・だるさ・疲労倦怠感
  • ・胃の膨満感

脾の気を補い、消化器官に力をつける漢方薬で対処します。四君子湯(しくんしとう)・六君子湯(りっくんしとう)・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)・帰脾湯(きひとう)・加味帰脾湯(かみきひとう)が、代表的な漢方薬です。
とくに胃が弱い場合は、四君子湯がおすすめ。疲労倦怠感がひどく、やる気が出ない、ぼーっとするといった場合は、帰脾湯・加味帰脾湯・補中益気湯が向いています。
さほど胃はもたれていないけれど疲労感が強いときは、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)が向いているでしょう。

昇清作用の失調

脾の昇清作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・食後の眠気
  • ・胃下垂
  • ・脱肛
  • ・下痢

昇清作用は、脾の気が十分にないと発揮されないため、脾の気を補い、消化器官に力をつけるために、運化作用に使用するのと同じ漢方薬での対処が基本です。中でも補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、内臓を上に持ち上げる作用を持つ生薬を含むため、胃下垂や脱肛にも使われます。
お腹が冷えて下痢をしている場合は人参湯(にんじんとう)、消化不良で、かつ下痢の人は啓脾湯(けいひとう)がおすすめです。腹痛を伴う下痢には、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)・小建中湯(しょうけんちゅうとう)・大建中湯(だいけんちゅうとう)が向いている場合があります。他にも、消化器官の余計な水を抜いて下痢を改善する漢方薬として、五苓散(ごれいさん)を使用するケースもあるでしょう。

統血作用の失調

脾の統血作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・アザ(アザができやすい)
  • ・血便
  • ・血尿
  • ・月経過多

統血作用の失調も、基本的には脾の気を補い、消化器官に力をつける漢方薬で対処します。ただ、出血がひどいと、体の気だけでなく血も不足する場合があるでしょう。血の不足には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・四物湯(しもつとう)・十全大補湯・人参養栄湯などがおすすめです。
当帰芍薬散以外は胃もたれしやすいので、先に運化作用の失調で挙げた脾の気を補う漢方薬をしばらく飲みましょう。また、当帰芍薬散ときゅう帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)は、脾の気を穏やかに補いながら血も補ってくれます。

 

脾のためにとりたい食べ物

五行学説における五臓・脾とは?

脾のためにとりたい食べ物は、4種類あります。
・甘味
・健脾(けんぴ)
・利湿(りしつ)
・疏肝理気(そかんりき)

甘味

甘味の食べ物は、脾を補います。五行で言う「甘味」とは、食べ物の機能を指しているので、必ずしも甘い食べ物とは限りません。
甘味の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

穀類・米麹・紅麹・お麩・イモ類・むかご・豆類・アスパラガス・エゴマの葉・きのこ類・オクラ・カブ・かぼちゃ・カリフラワー・ブロッコリー・キャベツ・きゅうり・空芯菜・クレソン・クワイ・小松菜・ししとうがらし・春菊・じゅんさい・ズッキーニ・せり・セロリ・ゼンマイ・だいこん・たけのこ・玉ねぎ・チャービル・チンゲンサイ・冬瓜・豆苗・とうもろこし・トマト・とんぶり・ナス・ニラ・ニンジン・にんにく(火を通した場合)・白菜・ビーツ・ピーマン・ほうれんそう・三つ葉・芽キャベツ・大豆もやし・緑豆もやし・モロヘイヤ・百合根・ラディッシュ・レタス・れんこん・わらび・アボカド・ココナッツ・甘味のある果実全般・アーモンド・カカオ・カシューナッツ・銀杏・栗・くるみ・ごま・蓮の実・ヘーゼルナッツ・松の実・ピーナッツ・魚介類・馬肉とハト肉以外の多くの肉類・卵類・乳製品

健脾(けんぴ)

健脾の食べ物は、脾の働きを正常にします。食欲不振・疲労倦怠・気力体力の低下・下痢のときにおすすめ。 健脾の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

赤米・うるち米・オートミール・キビ・黒米・米麹・発芽玄米・ハトムギ・ヒエ・紅麹・餅米・さつまいも・じゃがいも・コーンスターチ・タピオカ・むかご・八頭・山芋・いんげん豆・黒豆・ササゲ・大豆と大豆製品・ひよこ豆・あさつき・エゴマの葉・エシャレット・えんどう豆・オクラ・かぼちゃ・カリフラワー・ブロッコリー・小松菜・さやいんげん・そら豆・チンゲンサイ・ニンジン・にんにく・にんにくの茎・ネギ・白菜・ひらたけ・マッシュルーム・ローズマリー・アボカド・干し柿・ココナッツ・さくらんぼ・サンザシ・なつめ・ライチ・りんご・栗・蓮の実・アジ・イワシ・ウニ・カタクチイワシ・スズキ・タイ・ハタ・ハモ・ヒラメ・ブリ・鴨肉・牛肉・鶏の砂肝・馬肉・豚の胃・うずらの卵・鶏卵の卵黄

利湿

利湿の食べ物は、上半身に溜まった余計な水を取り除き、頭の重さ・疲労倦怠感・食欲不振・むくみ・悪心を和らげます。
利湿の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

いんげん豆・レンズ豆・枝豆・オレガノ・キャベツ・空芯菜・さやいんげん・セージ・セロリ・そら豆・とんぶり・にんにくの茎・バジル・松茸・大豆もやし・モロヘイヤ・よもぎ・ココナッツ・パパイア・カニ・しじみ・はた・カルダモン・山椒・花椒・唐辛子

疏肝理気(そかんりき)

木である肝が高ぶると、土である脾を押さえつけてしまい、脾が不調となります。イライラやクヨクヨで食欲がなくなるのは、脾を押さえつける肝のせいです。肝の高ぶりには、肝の気の巡りを整える疏肝理気の食べ物がおすすめ。
疏肝理気の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

そば・フェンネル・オレガノ・しそ・タイム・玉ねぎ・チャービル・にんにくの茎・のびる・バジル・ピーマン・松茸・三つ葉・みょうが・レモンバーム・ローリエ・柑橘類・ライチ・カジキマグロ・カルダモン・クミン・ターメリック・ナツメグ・みかんの皮・八角・カモミール・キンモクセイ・バラ(とくにまい瑰花(まいかいか)と呼ばれるバラのつぼみ)・ラベンダー・ジャスミン・醸造酒・ワイン

疏肝理気の食べ物はよい香りが多いので、自分の好きな香りを取り入れてみるとよいでしょう。とくに好きな香りがない場合は、漢方において気を巡らせる作用がある柑橘系の香りがおすすめです。レモン・グレープフルーツ・オレンジ・ベルガモット(アールグレイの香り)は比較的手に入りやすく、万人に好まれる香りでしょう。

 
脾を整えて活力あふれる毎日へ

脾は、体を温めて動かすエネルギー「気」と、体に栄養とうるおいを送る「血」を作る大切な器官です。脾が元気でこそ、おいしく食事をとれて、気力とやる気にあふれる毎日を過ごせます。脾が不調だと、食欲不振・むくみ・食後の眠気といった、さまざまな不調が起こります。ご紹介した漢方薬や食材を適切に取り入れて、元気な毎日を送りましょう。

  • 田中彩

    アロマ・ハーブ・薬膳・漢方ライター田中彩

    「紅生姜」の名義でハーブ・薬膳・漢方を中心に書くWebライター。植物と昆虫の研究で修士号を取得。農分野で研究員として働いた経験とバイオ系で遺伝子検査や抗体精製などに関わった経験あり。 薬膳コーディネーター、メディカルハーブセラピスト、アロマ&ケアスペシャリスト、紅茶検定中級の資格あり。理系として、研究論文(英語含む)、書籍を参考に執筆するよう心がけている。