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五行における五臓(ごぞう)の腎とは何?働きや特徴、腎によい漢方薬や食べ物をとりいれて若々しい人生に

漢方薬・生薬CHINESE MEDICINE
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2024/05/15

漢方や東洋医学では、五行(ごぎょう)・五臓(ごぞう)という言葉がよく使われます。どのような意味なのでしょうか?
五臓とは、五行学説に基づいて体の機能を肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)の5つに分類した考え方です。「腎」はアンチエイジング・老化・生殖力・尿トラブルに関わります。「腎」について、働きや特徴をわかりやすく説明し、腎の不調によい漢方薬や食材も紹介します。精力を蓄える腎を整えて、若々しく過ごしましょう。

 

五臓のうちの「腎」とは

漢方の考え方の基礎となる「五行」と「五臓」、そして五臓のひとつ「腎」についてみていきましょう。

五行とは

万物は、木・火・土・金・水の基本五元素によって構成されるとする考え方です。人体の機能や働きも、五行によって分類され、木・火・土・金・水には、「相生」(そうせい)と「相克」(そうこく)の関係があります。相生とは、金(金属)が結露すると水が生まれる、水は木を成長させるなど、五行のうちのひとつが別の元素に対して促進や養成をする関係です。相克とは、水は火を消す、土は水を吸収するといった、別の元素に対して抑制や制約をする関係です。相生・相克の関係は、五行で分類された人体の機能や働きにおいても、同じようにみられます。

五臓とは

体の機能や働きを五行で分けたのが五臓です。五臓には、肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)があり、肝=木・心=火・脾=土・肺=金・腎=水と対応しています。また、五臓にも相生関係と相克関係があるのです。

腎(じん)とは

腎は、内臓の腎臓だけでなく、成長・生殖・老化を司る力「精」を貯めておく能力も持つ五臓です。全身を巡った気(体を温め動かすエネルギー)を回収し、不要な要素を体外に排出する「納気」(のうき)と呼ばれる働きをします。不要な要素には水分が含まれており、水分の貯蔵と排泄を司る腎は、水分代謝を担っていると言えるでしょう。腎の水分に関する働きを、「主水作用」(しゅすいさよう)と呼びます。
また、相生関係では、腎の力は肝(情緒や血の貯蔵に関わる五臓)を助けます。腎(水)の不調は肝(木)の不調に繋がり、さらに、肺(金)が不調だと腎(水)が不調(とくに水分代謝の不調)を生じるのです。

相克関係では、五行で土に属する脾(消化吸収に関わる五臓)の力が強いと、腎は抑制されます。腎は生まれ持った精気「先天の精」(せんてんのせい)と、飲食物を消化吸収して作った精気「後天の精」(こうてんのせい)を貯めておく五臓です。脾が亢進して暴飲暴食し、栄養が偏ると、後天の精が十分に作られず、先天の精を使って生きざるをえません。先天の精は腎の重要な要素なので、先天の精が使われすぎると腎が弱まります。また、腎の働きは心(血液循環や精神に関わる五臓)を抑制しますが、腎の不調で心にも不調が出る場合がほとんどです。

腎は、腎虚(じんきょ)と呼ばれる、必要な要素が足りない状態に陥りやすい傾向があります。「腎に実証なし」と言われ、足りない要素があって弱る場合はありますが、たとえ必要な要素が多すぎても、強くは働きません。

 

腎の働きと特徴

腎は、五行の水に対応します。尿トラブルや老化に関わる五臓です。

腎の働き

腎の働きは、主に3つあります。

主水(しゅすい)作用

身体の水分代謝を調節する作用です。体の水分のうち、必要な要素と不要な要素をより分け、不要な要素を膀胱へ送ります。主水作用が失調すると、尿トラブル(尿の出が悪くなったり、逆に頻尿になったり)を引き起こし、身体に水分が溜まってむくむ場合もあります。

納気(のうき)作用

肺から呼吸などで吸入した気を、下半身に降ろす作用です。肺と腎が相互に働くことで、気の循環が保たれます。納気作用が失調すると、肺が吸入した気を腎まで下ろせなくなるので、息切れや呼吸困難などが起こります。

蔵精(ぞうせい)作用

成長や生殖に関わるエネルギー(不足すると老化するエネルギー)「精」を貯めておく作用です。精には、生まれつき備わっている先天の精と、生まれてから飲食物を吸収して作る後天の精があり、腎は両方の精を蔵します。ただし、先天の精のほうが腎にとって重要です。単に腎精というときは、先天の精を指す場合があります。蔵精作用が失調すると腎精が不足するので、発育不良・生殖機能低下・老化現象が起こるのです。

腎の特徴と他への関わり

腎は、「耳と二陰」「骨」「髪」の3つの部分に深く関わっています。

耳と二陰

五臓がそれぞれ関わる感覚器を、五官(ごかん)と呼びます。腎の五官は、耳と二陰(生殖器)です。「腎は、耳と二陰に開竅(かいきょう)す」とも言われています。開竅とは、「詰まった穴の通りをよくする」の意味で、腎の状態は穴である耳や生殖器に現れるのです。腎が失調すると、難聴・性器異常・月経異常などが起きます。

五臓がそれぞれ司る器官を、五主(ごしゅ)と言います。腎の五主は骨です。腎が失調すると、骨粗鬆症になります。また、漢方において脳髄は、骨髄と似た種類とされているため、骨を司る腎が不調になると、頭脳の能力の低下も起こると考えられています。

五臓それぞれの変調が現れる部位を、五華(ごか)と言います。腎の五華は髪です。腎が不調だと、髪のつやがなくなったり、髪が激しく抜けたり、白髪になったりします。

 

腎の不調で現れる症状

腎が不調になると、多くの場合、成長・老化・生殖能力が問題になります。また、尿トラブルにも腎は深く関わっています。

主水作用の失調

腎の主水作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・排尿困難
  • ・頻尿
  • ・むくみ
  • ・失禁

腎を補いつつ、水分代謝も助ける漢方薬で対処します。八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、腎を補いつつ膀胱に働きかけて尿を貯めやすくしたり、身体の余分な水分を体外に排出したりする漢方薬です。単にむくむ場合は、五苓散(ごれいさん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などの、水分代謝をよくする漢方薬も役立ちます。

納気作用の失調

腎の納気作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・息切れ
  • ・呼吸困難
  • ・気管支炎
  • ・喘息

腎を補いつつ、肺もサポートする漢方薬で対処します。麦味地黄丸(ばくみじおうがん)は、腎を補いつつ肺を潤す代表的な漢方薬です。また、腎を補う漢方薬である八味地黄丸と、肺のエネルギーを補う漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を同時に使う場合もあります。腎と肺を同時に補うのが大事なので、腎を補う漢方薬の六味丸(ろくみがん)と肺を補う玉屏風散(ぎょくへいふうさん)を同時に使う場合も。

蔵精作用の失調

腎の蔵精作用が失調すると、以下の症状が現れやすくなります。

  • ・発育不良
  • ・不妊
  • ・生理不順
  • ・腰や膝のだるさ
  • ・骨粗鬆症
  • ・その他老化現象

腎精を補う漢方薬で対処します。八味地黄丸や六味地黄丸が、代表的な漢方薬です。飲む人の体質に合わせて、八味地黄丸の派生処方を使い分けます。たとえば、尿トラブルがあれば牛車腎気丸、のぼせやほてりがあれば知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、皮膚や粘膜の乾燥が気になるなら麦味地黄丸、目の疲れがあるなら杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)など。不眠や不安がある人には、天王補心丹(てんのうほしんたん)などもおすすめです。

 

腎のためにとりたい食べ物

五行における五臓(ごぞう)の腎とは何?

腎のためにとりたい食べ物は、4種類あります。

・鹹味(かんみ)
・補腎(ほじん)
・補陽(ほよう)
・補気(ほき)

鹹味(かんみ)

腎を整える食べ物です。鹹味とは、塩辛い味を意味しますが、五行で言う「鹹味」は食べ物の機能を指しているので、必ずしも塩辛い食べ物とは限りません。ミネラルが豊富な食べ物と考えるとわかりやすくなります。
鹹味の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

あわ・大麦・明日葉・干し椎茸・わらび・栗・海藻類・貝類・アジ・あなご・あんきも・あんこう・イカ・いくら・イワシ・ウニ・エビ・カタクチイワシ(アンチョビ)・カニ・クラゲ・タコ・タラ・鴨肉・牛すじ・豚肉・豚足・塩・醤油・豆板醤・味噌・ハブ茶

補腎(ほじん)

腎精を補う食べ物です。黒い食べ物が多くなります。
補腎の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

あわ・黒米・小麦・ムカゴ・山芋・黒豆・ササゲ・なた豆・エゴマの葉・枝豆・ブロッコリー・カリフラワー・キャベツ・ごぼう・干し椎茸・なめこ・ニラ・芽キャベツ・モロヘイヤ・ヤマブシタケ・カシス・ブルーベリー・プルーン・カシューナッツ・栗・くるみ・黒ごま・蓮の実・松の実・アワビ・いくら・イシモチ・イトヨリ・うなぎ・ウニ・エビ・ホタテ・カツオ・川エビ・サザエ・サヨリ・シシャモ・スズキ・すっぽん・タイ・太刀魚・なまこ・マナガツオ・ムール貝・ウコッケイ・うずら・牛の腎臓・クジラ肉・鹿肉・鶏肉・鶏レバー・豚肉・豚の腎臓・ウコッケイの卵・ココナッツオイル・鶏肉の油・ローヤルゼリー・クローブ・ハブ茶

補陽(ほよう)

腎を温める力を補う食べ物です。補気の食べ物と一緒にとると、腎を補うとされています。
補陽の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

ニラ・赤貝・エビ・まぐろ・フェンネル(ういきょう)の種・クローブ・シナモン・八角・ウイスキー

補気(ほき)

体を温め動かすエネルギー「気」を補う食材です。補陽の食材と一緒にとると、腎を補います。
補気の食べ物で手に入りやすいのは、以下のとおりです。

穀類・イモ類・大豆・豆腐・納豆・あさつき・アスパラガス・エシャレット・枝豆・えんどう豆・かぶ・かぼちゃ・黒きくらげ・いんげん豆・さやいんげん・きのこ類・そら豆・にんにくの茎・モロヘイヤ・アボカド・ココナッツ・パイナップル・ぶどう・ココア・あなご・イワシ・うなぎ・エビ・カツオ・鮭・サバ・さわら・タコ・たら・にしん・ハゼ・ぶり・ぼら・まぐろ・牛肉・鶏肉・豚肉・うずらの卵・水飴・酒粕・味噌・甘酒

 
腎を整えて若々しく生きよう

腎は精力を貯蔵する五臓で、不調になると老化に大きく影響します。必要な要素が不足すると不調が起きやすく、髪・骨の不調や尿トラブルも、腎の不調に含まれます。腎を補う食材を積極的にとり、時には腎を補う漢方薬も活用して、いつまでも若々しい人生を過ごしましょう。

  • 田中彩

    アロマ・ハーブ・薬膳・漢方ライター田中彩

    「紅生姜」の名義でハーブ・薬膳・漢方を中心に書くWebライター。植物と昆虫の研究で修士号を取得。農分野で研究員として働いた経験とバイオ系で遺伝子検査や抗体精製などに関わった経験あり。 薬膳コーディネーター、メディカルハーブセラピスト、アロマ&ケアスペシャリスト、紅茶検定中級の資格あり。理系として、研究論文(英語含む)、書籍を参考に執筆するよう心がけている。