監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
女性ホルモンの急激な減少によって引き起こされる更年期障害では、自律神経バランスの乱れが生じます。自律神経バランスの乱れは心身に多くの不調をもたらし、日常生活に支障を来す場合も少なくありません。
更年期障害と自律神経バランスの乱れにはどのような関係があるのでしょうか?症状やセルフケア、治療の必要性などについて詳しく解説します。
更年期障害とは、閉経前後5年の期間(更年期)に心身の不調が生じて日常生活に支障を来す状態のことを指します。原因は、卵巣機能の低下による女性ホルモンの一種「エストロゲン」の減少です。更年期障害の症状は多岐に渡りますが、多くは自律神経バランスの乱れによって引き起こされます。
更年期障害と自律神経バランスの関係や引き起こされる症状について詳しく見てみましょう。
女性ホルモンのエストロゲンは卵巣から分泌されますが、40代半ばを過ぎると卵巣機能が低下して急激に分泌量が減少していきます。そして、50代に差しかかると卵巣からエストロゲンが分泌されなくなり閉経を迎えるのです。
エストロゲンの分泌は脳の視床下部という部位によってコントロールされています。卵巣の機能が正常なときには、視床下部がエストロゲンの不足を検知すると卵巣に働きかけるホルモンを分泌してエストロゲンの分泌量をアップさせます。しかし、年齢を重ねて卵巣の機能が低下すると、卵巣に働きかけるホルモンを分泌しても十分なエストロゲンは分泌されません。そして、エストロゲンの分泌を促すために視床下部が過剰に働いている状態になるのです。
視床下部には自律神経バランスを整える働きもあります。そのため、卵巣機能の低下によって視床下部が酷使された状態が続くと自律神経バランスにも異常を来すと考えられています。
更年期障害の症状は多岐に渡ります。症状の現れ方には個人差がありますが、自律神経バランスの乱れによる身体的、精神的な症状として次のようなものが挙げられます。
更年期障害は40代後半から生じるケースが多いとされていますが、発症時期には個人差があります。思い当たる症状に悩まされるようになったら注意が必要です。
更年期障害における自律神経バランスの乱れは、上述したように加齢によるエストロゲンの減少によって引き起こされます。そのため、発症を完全に予防するのは困難でしょう。一方で、症状を和らげて上手く更年期障害と付き合っていくためのセルフケアは可能です。
自律神経バランスを整えるためにはどのようなセルフケアを心がければよいのか詳しく見てみましょう。
自律神経バランスを整えるには、食事、運動、睡眠などの基本的な生活習慣を整えていく必要があります。
食事面では、栄養バランスがよい食事を3食しっかり摂るようにしましょう。特に、朝食は睡眠中に下がっていた体温を上げるため、自律神経バランスを整える効果が期待できます。朝は簡単なもので済ませる、朝は時間がないから朝食は抜く…といった方は注意が必要です。
また、適度な運動は自律神経バランスの乱れによって引き起こされる血流悪化を改善する効果が期待できます。さらに、自律神経バランスを整えるためには十分な睡眠時間の確保も重要です。自律神経バランスが乱れると寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう、といった不眠症状に悩まされる方も多いでしょう。睡眠不足はさらに自律神経バランスを乱す可能性があります。できるだけ多くの睡眠をとれるように、まずは生活リズムを整えましょう。
自律神経バランスが乱れて交感神経が過度に働くと緊張感が高まり、心身にさまざまな不調を引き起こします。交感神経が優位な状態から副交感神経が優位な状態へスムーズに切り替えるには、リラックスできる時間の確保が大切です。
具体的には、ゆったり湯船につかる、好みのアロマを炊く、趣味に没頭する、など自分に合ったリラックス時間を作るよう心がけましょう。
厚生労働省による「更年期症状・障害に関する意識調査(2022年)」によれば、更年期による症状がある女性のうち、セルフケアのみで対処している方は全体の約8割に上りました。
しかし、更年期障害の症状は放っておくと心身に重大な影響を及ぼすケースも少なくありません。また、更年期障害ではなく甲状腺疾患やうつ病など別の病気が原因になっていることもあります。つらい症状が続くときは医療機関への受診が必要な場合があります。
病院受診の目安や注意点について詳しく見てみましょう。
更年期障害によるつらい症状が日常生活に支障を来している場合には、医療機関での治療が必要となる場合があります。目安が分からない方は、簡略更年期指数(SMIスコア)を元にご自身の状態をチェックしてみましょう。
上表の10個の症状について、重症度を強・中・弱・無の4段階に分けてそれぞれのスコアを合計して下さい。51点以上は医師の診察を受けて、適切な生活指導、カウンセリング、薬物療法などを行うように推奨されています。当てはまる方は、つらい症状を我慢せず、医療機関を受診しましょう。 受診する診療科は婦人科が一般的です。一方で、かかりつけの内科などがある場合はそこで相談することも可能でしょう。精神的な症状が強いときは精神科や心療内科での治療もできます。それぞれの症状に合わせて受診する診療科を検討してください。
更年期障害による自律神経バランスの乱れは主に薬物療法が行われます。具体的には、不足したエストロゲンを補うためのホルモン補充療法、各症状を和らげるために漢方薬や睡眠薬などの薬剤の投与が治療の主体となります。
また、精神的な症状が強い場合にはカウンセリングなどを行うケースもありますので、精神的な症状が強い場合は医師に相談しましょう。
更年期は女性にとって避けることができないライフステージの一つです。更年期ではエストロゲンの急激な減少によって心身にさまざまな不調が引き起こされます。その多くは自律神経バランスの乱れによるものです。
自律神経バランスの乱れは、生活習慣を整えたり、リラックスできる時間をとってケアできる部分もあります。しかし、強い症状が続くときは別の病気の可能性も考えられます。また、強い症状を放っておくと日常生活に支障を来し、心身への影響が深刻化することも少なくありません。今回ご紹介したセルフチェックを行い、医療機関への受診が必要な方はつらい症状を我慢せず、できるだけ早めに医師の診察を受けてください。
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