監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
食欲不振・吐き気とは、食べすぎや飲みすぎ、ストレスなどの生活習慣の乱れによっても引き起こされる不調です。女性の場合、ホルモンバランスの乱れにより引き起こされるケースも珍しくありません。生活習慣やホルモンバランスの変化が原因の場合は一時的な症状であるケースが多く、胃腸薬などを服用したり、ゆっくり休んだりすれば、症状は徐々におさまります。ただし、頭痛・腹部膨満感・倦怠感といった別の症状を伴うなら、ほかの病気が隠れているかもしれません。自分の状態に目を向け、いざという時にどのタイミングで何科を受診するべきか、知識をつけておきましょう。
食欲不振とは、食欲がわかない状態を指します。通常、食事をしていないと血糖値が下がり、空っぽになった胃が収縮すると、摂食中枢(食欲)が刺激され空腹を感じます。この仕組みのどこかに異常をきたすと食欲を感じにくくなるのです。
食欲不振は、以下の症状を引き起こします。目安にしてみてください。
吐き気とは、胃のムカムカ感をはじめとする不快感を指します。通常、胃に入った食べ物は逆流しない仕組みです。しかし、食欲不振が続くと胃の働きが低下して嘔吐中枢が刺激される場合があります。すると、胃の内容物が逆流しようとしてしまい、吐き気へとつながります。食欲不振が吐き気を引き起こすだけでなく、胃の働き低下などによって引き起こされる吐き気から食欲不振へとつながる場合も。いずれにせよ、ますます食べるのが困難になると想像できるでしょう。
食欲不振と吐き気は一時的な症状であれば時間とともに落ち着くケースが多いです。とはいえ、原因によっては放置すると危険な可能性もあります。十分な対策や心づもりをするために知っておきたい、食欲不振・吐き気の原因をみていきましょう。
食欲不振と吐き気を引き起こす代表的な原因は、食べすぎや飲みすぎです。食べすぎると、胃の消化機能が追いつかず、胃に食べ物が長くとどまるため、胃もたれといった不快感を覚えやすくなります。
また、二日酔いによる吐き気は、肝臓でアルコール処理が追いつかず、嘔吐中枢が刺激されて起こるのです。また、飲み過ぎは脱水や電解質バランスの乱れを引き起こしますが、それも嘔吐中枢を刺激する原因になります。食べすぎ・飲みすぎによる食欲不振と吐き気がつらいときは、胃の働きを改善する市販の胃薬を服用し、しばらく様子をみればおさまるでしょう。
ストレスや不安が蓄積されると、体を活発にする交感神経ばかり働き、消化吸収を助ける副交感神経のはたらきが低下します。結果、胃の働きが悪くなって食欲不振・吐き気につながるのです。
緊張しやすい人や人間関係に悩みやすい人、責任感が強く真面目な人は、ストレスや不安による食欲不振・吐き気を引き起こしやすいでしょう。リラックスを意識し、適度にストレスを解消するよう心がけるのが大切です。
夏の暑さに弱い人は、夏バテや熱中症が原因かもしれません。夏バテは、水分・塩分不足だけでなく、屋内外での寒暖差といった自律神経バランスの乱れから起こります。自律神経バランスの乱れは、食欲不振・吐き気・だるさなど、複数の症状を同時に招きかねないのです。
夏バテを放置したまま運動や活動を続けていると、倦怠感や脱力感といった熱中症の症状につながりやすくなります。季節の変化により体調を崩しやすい人は、なるべく早い段階で涼しい場所に移動しましょう。
女性は、PMSが原因で引き起こされるケースも。PMSとは月経前症候群ともいわれ、生理前のホルモンバランスの変化によって起こる心身の不調を指します。食欲不振や吐き気のほか、腹痛・頭痛・首や肩のこりなど、PMSにより起こる不調は人それぞれですが、総じてホルモンバランスの乱れが大きく関係しています。心と身体をゆっくり休ませましょう。
症状が長引くなら、胃や食道に病気が隠れている可能性があります。胃周辺に不調が起こると、消化機能が弱まって食べ物をうまく処理できなくなり、吐き気が起こりやすくなります。なかでも機能性ディスペプシアは、消化器官の機能低下・ストレス・内臓の知覚過敏など、原因が多岐にわたります。若い女性に多い病気で、検査をしても異常がみつからないケースも珍しくありません。腹部膨満感があり、原因不明の食欲不振・吐き気に悩む女性は注意しましょう。
また、胃や十二指腸の粘膜が荒れていると空腹は感じるものの、食事をすると胃の不快感や吐き気などを引き起こして食事が少なくなる場合があります。
食欲不振と吐き気に加え、ほかの症状がみられるときは、別の病気も考えられます。胃や食道以外に原因があるのかもしれません。+αの症状から考えられる病気をチェックしてみましょう。
気分の落ち込み、不眠などの精神的な不調を伴う場合は、うつ病といった精神的な病気を疑ってみてください。代表的な症状は、気分の落ち込みや意欲・関心の低下、不安感、焦燥感などです。
「身体が重だるい」「すぐに疲れる」といった倦怠感を伴うなら、ウイルス性肝炎などによる肝機能低下が原因かもしれません。食欲不振・吐き気・倦怠感が同時にみられたら、できるだけ早い検査を検討しましょう。
食欲不振と吐き気に加え、げっぷが出るなら、逆流性食道炎かもしれません。たんぱく質もしくは脂肪分の多い食事による胃酸分泌増加や、加齢・薬の副作用・ストレスの蓄積が主な原因です。若者から高齢者まで、幅広くなりやすい病気でもあります。
すっぱい液が喉まで上がってくる以外にも、胸焼けや、腹部膨満感を伴うケースもあります。
食欲不振と吐き気がなかなかおさまらないときは、医療機関の受診を検討しましょう。受診が推奨されるタイミングは、症状の出始めから1週間以上です。ただし、強い症状はある場合はできるだけ早いタイミングでの受診が必要となります。
もし続けて服用している薬があるなら、薬の副作用である可能性もゼロではないため、まずはかかりつけ医にみてもらいましょう。
「食欲不振と吐き気があっても、栄養をつけるために食べなきゃ!」と思ってしまうかもしれません。食事は必要ではありますが、無理に食べようとするとストレスがたまったり、嘔吐したりと、逆効果になりかねません。
食欲がないときは、柔らかくて消化しやすい、喉越しがよいといった、胃や食道に負担の少ない食べ物を選びましょう。卵や豆腐をはじめとする、少ない量で栄養をとれる食べ物を積極的にとるのも一案です。
食欲不振や吐き気は食事量の低下を引き起こし、長く続くと体に必要なエネルギーや栄養の不足につながります。
食欲不振や吐き気は一時的なものであれば、暴飲暴食やストレスなど生活習慣の乱れが主な原因となっているケースが多いでしょう。生活の見直しで改善できる症状です。
しかし、症状が長く続く場合や非常に強い症状がある場合は今回ご紹介したように心身の病気が原因の可能性があります。
また、食欲不振は気付かない内に進行している場合もあります。体の不調が続くと「慣れ」で気付きにくい場合も少なくないのです。
年に1度は健康診断や人間ドックを受けて体の状態を把握し、不調の早期発見を目指しましょう。
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