監修医師成田 亜希子
2011年医師免許取得。初期臨床研修を経て総合診療医として幅広い分野の治療に携わる。
臨床医として勤務しながら、行政機関での勤務経験もあり地域の健康課題にアプローチした健康寿命延伸、感染症対策などの医療行政にも携わってきた。
国立保健医療科学院、結核研究所での研鑽も積む。
現在、医療法人ウェルパートナー主任医師。
発熱の医学的な基準は一般的に、37.5℃以上とされています。しかし、子どもを病院へ連れて行くか、学校や勤務先を休むか迷ったら、体温ではなく本人の状態・具合を元に判断しましょう。正しい方法で測定し平熱を知っておくと、もしものときに役立ちます。体温は年齢によって違い、個人差もあるので目安に過ぎません。
いつもより体温が高いときには、休養を取るのが何より大切です。発熱による脱水を起こさないよう水分を摂取し、消化のよい食事をしてエネルギーを補給しましょう。
2013年に厚生労働省より発出された通知では、発熱は体温が37.5℃以上、高熱は体温が38.0℃以上を示した状態とされています。
しかし、平熱は人によって千差万別。37.5℃未満で発熱だと感じる人がいる一方、37.5℃以上でもまったく不調を感じない人もいます。
発熱する理由は、基本的には体を守るためです。
人間の体には、環境や体内の変化に応じて、生命維持に必要な機能を正常に保つ「恒常性」と呼ばれるはたらきがあります。暑くても寒くても、体温がほぼ同じに保たれているのは、恒常性のためです。
感染症に罹患すると、細菌・ウイルスなどの病原体を排除する過程で発熱しますが、自己免疫疾患やがんなどによる発熱の詳細は解明されていません。
体の中に細菌やウイルスなどの病原体が入ってくると、まず白血球やマクロファージといった免疫細胞がサイトカインを作ります。サイトカインのはたらきで、侵入情報が脳に伝わり、体温を上げるように指令が伝導するのです。体温が上昇すると、免疫細胞は活性化され病原体を攻撃します。
また細菌・ウイルスは平熱あたりで最も増殖しますが、体温が38℃以上になると多くの病原体は増殖プロセスが妨げられるためほとんど増殖しなくなります。
感染症のほか、関節リウマチなどの自己免疫疾患やがんでも発熱します。自己免疫疾患は免疫機能の異常が、がんはがん細胞・免疫細胞が産生するサイトカインの関与まではわかっていますが、詳しい理由は不明です。
発熱・高熱の基準は、大人も子どもも同じです。しかしながら、平熱は年齢によって違います。子どもの平熱はやや高め、生理機能が低下する高齢者はやや低めです。微熱の基準はあいまいで「平熱が何度か」によって違います。
平熱には個人差があり、年齢・食事・運動・感情の変化などが影響しています。微熱は平熱を基準に考えましょう。
日本人の平均体温は、36.89°Cもしくは36.67°Cとの報告がありますが個人差が大きく、一般的には35℃後半から37℃程度とされています。体温は、外部環境や時刻の変化にも影響を受け、幅は1°C弱です。最も低いのは早朝、高いのは夕方と言われています。
平熱以上発熱未満が微熱といえるでしょう。
微熱の原因は、主に月経周期やストレスです。排卵すると体温は約0.6℃上昇し、月経まで高温期は継続します。熱に思い当たる原因がないときには、ストレスによる「心因性発熱」を疑ってみましょう。ストレスが加わると交感神経のはたらきは活発になり、脂肪を燃やして熱を産生するはたらきのある褐色脂肪細胞が刺激され、体温は上昇します。
子どもの微熱は、大人と同じように「平熱が何度か」を基準に考えましょう。普段から体温を測定して平熱を知っておくと、もしものときに役立ちます。
子どもが体温測定を嫌がるために、時間のかからない「予測式」体温計を使っている人がいるかもしれませんが、表示される値は実際の体温ではなく計算値のため注意が必要です。可能な限り、より正確な検温ができる実測値で計測できる製品の使用をおすすめします。子どもの平熱については、以下の値が正常値の参考になります。
発熱を伴う病気には、体温変化に特徴のあるタイプがあります。以前は診断の手がかりにされていましたが、解熱剤や抗菌剤が使われるようになってから、典型的な特徴を見る機会は減少しました。たとえば自己免疫疾患の関節リウマチは、周期熱型を示す代表的な病気です。
稽留熱は、1日の体温の変動が1℃以内で38℃以上の高熱が続く状態の熱です。肺炎球菌による肺炎・髄膜炎・脳炎で見られます。
1日の体温差が1℃以上、一定間隔で高熱と平熱が交互にあらわれる熱型です。蚊を介するマラリア、ダニやシラミによる回帰熱がよく知られています。子ども特有であげられるのは、溶連菌感染症です。医薬品のアレルギーでも起こります。
1日の体温差が1℃以上で、平熱に下がらない熱型です。間欠熱と同じ病気で起こるほか、感染性心内膜炎や腎盂腎炎でも見られます。
平熱と発熱を周期的に繰り返す熱型です。周期熱を示す病気にはマラリア・家族性地中海熱・関節リウマチがあります。
平熱と発熱を不規則に繰り返すのが波状熱です。家畜が媒介する感染症のブルセラ症やマラリア(三日熱、四日熱)のほか、腎結石や胆道閉鎖症があります。
初めの発熱がいったん平熱まで下がった後に、再度発熱する熱型です。代表的な病気には、麻疹や蚊が媒介するデング熱があります。
参照:熱型と鑑別診断/国立大学法人旭川医科大学測定する場所によって体温は変わってくるため、正しい測定方法を身につける必要があります。人間の体温は体の中心に近いほど高く安定しており、末端や表面ほど環境の影響を受けやすいのです。また、季節や気温による変化にも注意しましょう。
「平熱が低い」と思っている人はひょっとすると測定方法を間違えているかもしれません。測定方法を確認してみてください。
体温が38℃以上なら、なんらかの病気であると考えるべきです。また41.5℃以上の場合は、脳へのダメージも考えられるので、早めに受診しましょう。新型コロナウイルス感染症などの感染症に罹患して発熱している可能性もあるので、事前に電話で連絡してください。
以下の人は、重い病気が隠れている可能性や重症化リスクが高いため、我慢せずなるべく早めに受診しましょう。
発熱のほか、下記の症状のある場合は、重い病気が隠れているケースもあるため、なるべく早く受診しましょう。
赤ちゃんの機嫌をよく見ましょう。すごく不機嫌・ぐったりしている、母乳やミルクの飲みが悪い、呼吸が苦しそうなときは、すぐに受診が必要です。微熱程度で機嫌がよければ、半日くらい様子を見て、次第に熱が上がるときには受診しましょう。
子どもは感染症の種類によって、学校保健安全法で出席停止期間が定められています。たとえばインフルエンザでの目安期間は、発症後5日間経過し、かつ解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまでです。
治療によって、早めに解熱しても感染力が残っているため、出席停止期間どおり欠席してください。通園・通学の再開は、かかりつけ医や学校と相談しましょう。
感染症の発熱は、体へ侵入した細菌やウイルスを排除しようとするはたらきなので、安易に解熱剤を使わず、安静にして休養を取りましょう。体力があると、十分な睡眠だけでも回復するケースがあります。水分補給で脱水を防ぎ、消化のよい食事でエネルギーをつけ、経過観察しましょう。
学校や仕事を休むかどうかの基準は体温だけではなく、症状を見極めるのも大切です。もちろん、37.5℃以上の発熱があるときは自宅で休養するのがよいですが、37.5℃以下の場合でも次のような症状があるときは休養も検討しましょう。
・倦怠感が強い
・咳やくしゃみがたくさん出る
・十分な水分や食事が摂れない
また、体温は高くなくても風邪症状があり、家族にインフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかっている人がいる場合も注意が必要です。これらの感染症でも体温が高くならないケースがあります。
周囲への感染拡大を防ぐためにも、抗原検査キットなどで感染の有無を確認してから学校や仕事に行くのがよいでしょう。
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